Wednesday, September 12, 2007

鎌倉聖ミカエル教会を訪ねて

鎌倉ちょっと不思議な物語76回

横須賀線が北鎌倉のトンネルを抜けた瞬間に空気が少しひんやりする。しばらくして鎌倉駅のプラットフォームに降り立つと、潮の匂いが微かに鼻腔を衝く。そしてこれが鎌倉という田舎町に住むことの最高の贅沢なのである。

しかし今も昔も東口から出る霊園方面の京急バスの最終は10時15分、ハイランド行きの最終は45分なので、私は混雑するタクシー乗り場を捨てて、たまには夜の小町通を八幡宮に向かって歩いた。

今から30年くらい前の小町通にはお茶屋と信用金庫と2つの喫茶店と玩具屋と駄菓子屋と古本屋と中華料理屋と呑み屋とひき肉屋と牛乳屋とピロシキ屋と薬局と医院と寿司屋とクリーニング屋と氷屋以外はほとんどなにもなかった。

現在のような阿呆な芋アイス屋やスイーツ屋や煎餅屋やブチックや雑貨屋やカフェなどは、ただの1軒もなかった。

ほの暗い街灯の下を私はとぼとぼと歩いた。しもた屋も貧しい民家もかたく門を閉じて寝静まり、狭くて細い道に人影はなく、舗道をうつ私の靴音だけがぴたぴたと音を立てていた。

小町通りの舗装が尽きるあたりに竹製品などを売る生垣屋があり、その左側に聖ミカエル教会が静かに佇んでいた。鎌倉には明治時代から多くの外国人が居住したために市内には22の教会が現存しているそうだ。

四人の大天使のうちの1名の名を冠したこのカトリック教会は、最近“ぴかぴかに醜く”立て直された。木造の聖堂部がかろうじて当時の姿をとどめているだけで往年の面影はない。市の指定景観重要建築物だというが、その価値はなさそうだ。

私は久しぶりにこの教会の前に立ち、この教会が経営する施設に障碍児の息子を入れていただけるかどうか神父様に相談に行った遠い昔の日を思い出した。礼拝堂に入ると格天井などさすがに内部の意匠が歴史を感じさせたが、それより驚いたのは私の亡くなった母と同じ名前の女性が最近神に召されたという知らせに出会ったことだった。

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