降っても照っても第51回
この映画は『特別な一日』や『ル・バル』や『マカロニ』のエットレ・スコーラ監督の作品だから、少し乱暴だけれども、あら筋がどうだこうだと書くのはいっさいやめよう。108分間、黙ってみていれば十二分に楽しませてくれる。
原題の『ラ・セーナ』は、イタリア語で「晩餐」。前菜やデザートや洒落た会話や悲喜こもごもの人間模様の数々を、監督は美味しく料理してくれる。そして最後に、夜空の星がぼおっと映し出されて、スコーラさんは、このシーンを撮りたかったのだとわかる。モーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲」の溶ろけるようなアンダンテを、リストランテの全員がしんみり聞き惚れるシーンは素敵だ。もういちど人間を、人生を好きになれる映画、かも知れない。
以上で終り、のセンス良し映画なのだが、僕としては、ある女性に再会できて嬉しかった。
ファニー・アルダンである。もう相当の歳なのに、色っぽい。レストランの女主人という役どころ。ベージュの前開きワンピースをゆったりと着こなし、ちょっと胸元をのぞかせ、あの人懐こい笑顔、大きな口を開けて「ヴオナセーラ」とお客様にご挨拶ーー
眼を凝らして、肩紐を何回もチェックしたが、多分ノーブラOR恋するブラであろう。
80年代の前半に、フランスかイタリアの田舎町でアルダンの映画を見た。アルダンが海辺の汚いバーのトイレに行く。ドアを開けたまま、パンストとスカートを一気に下ろして便器にしゃがむ。その時陰毛がくっきり映っているので僕は吃驚した。これ見よがしにシャアシャアと用便するアルダンめがけて、若きジャックニコルソン風労務者が欲情をムキダシにして進んでゆく……。
嘘みたいなシーンだったが、僕はこの眼でしかと見たのだ。しかし、このあと2人がどうなったのかまったく覚えていないのが残念。日本未公開の超B級作品だとおもう。恋人トリュフォーを失ったアルダンの自暴自棄がアナーキーに出ていた。できるだけ下らない映画に出て、自分を痛めつけてみたかったのだろう。
トリュフォーの遺体に取りすがって、アルダンがわんわん泣いたという記事を読んだこともある。その瞬間、僕はなぜか彼女のわんわん泣いている有様が、まるで映画のワンシーンのように脳裏に浮かんできて、大根女優の彼女を、はじめて好きになったのだった。
熟女アルダンのしどけなく、臈(ろう)たけた感じがなかなかいい。死ぬまでノンシャランにやってくれい。
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