Wednesday, August 15, 2007

ある丹波の老人の話(37)

第6話弟の更正 第5回

さて色々と周りに迷惑を掛けてきた私のこの弟でしたが、私はこの際、父の形見という意味で3,4千円の金をやって、好きなところへ行って好きな仕事をさせようと思いました。

本音をいいますと、この道楽者とは後難のないようきっぱり縁を切りたかったんです。ほんでもってこのことを「今日は言おう、明日は言おう」と機会を狙っておった訳でした。

しゃあけんど、基督教入信以来すでに十余年、自分の弟に対してこんな仕打ちをすることは全然肉親の愛情に欠けた神の御旨に背くことでありました。

私はかつて本間俊平氏から聞いた話を卒然として思い出しました。
氏は凶悪な強盗犯で釈放された男を自分が経営する大理石工場の金庫番にして更生させたのです。

私はこの話を思い出し、ただおのれの安きを求めて弟を疎んずることをせず、「すくわるるもほろぶるもいっさい弟とともに」の決心を固め、まずこれを心に誓い、神に祈り、それから改めて弟に
「まことにお前には申し訳ないことだった」
と手を突いて謝りました。

すると弟はオイオイと泣き出して、
「兄さん、なにをいうや。兄さんに詫びられるわけがどこにある。どうかその手を上げてください。みな私が悪かったんです…」
と気狂いのようになって言うのでした。

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