照る日曇る日 第408回
はじめはちっとも面白くないガキ小説かと文句を言いながら読んでいましたら、終わりごろ、全体の4分の3くらいから俄然面白くなってきて、最後は「さすがノーベル賞作家だけのことはあるなあ」と脱帽の一冊でありました。
著者はその都会的・文学的にねじ曲がった根性を叩き直すために、ペルーの少年士官学校に放り込まれたようですが、その寄宿舎生活での体験が色濃く反映された半自伝的な小説です。
そこでは飲酒、盗難、脱走、裏切り、不純異性交遊など、若き軍人候補生同級生たちが陥る乱脈で放恣な生態が赤裸々に描かれるとともに、上司である教官たちの腐敗堕落した無様な態度も暴きだされ、いずこの国にも共通する軍隊の非人間性と気狂い部落振りが鮮やかに活写されています。
しかし地獄にも仏がいまし、泥池にも蓮の花が咲くように、娑婆から隔離されたこの煉獄にも、清く正しく美しい魂の持主がいたのです。弱い仲間をいじめ、「悪中の悪」であったはずの少年、そして愚直なまでに己の信念を貫き通す指導教官が本書の最後に交わす短い会話が、私たちの汚辱にまみれた日常生活に一条の清風を吹き込んでくれるに違いありません。
息子は一筆一筆妻は一針一針私は一字一字 茫洋
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