闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.86
1952年に製作された箱根用水の工事をめぐる虚虚実実、波乱万丈の物語です。
タカクラ・テルの原作を山本薩夫が監督した本作では、いまどき珍しい人民史観による反権力の闘争が感動的に描かれています。箱根用水は1666年から70年の5年間の歳月と莫大な経費と人力を投入して、箱根芦ノ湖の水を湖尻峠の地下を通って、静岡県の深良川まで1280mの暗渠で結びましたが、この作品は私財を投げ出し、農民の先頭に立ってこの難工事に従事した江戸商人、友野與右衛門夫婦(河原崎長十郎、山田五十鈴)が主人公にフユーチャーされています。
しかし単なる徳川時代の土木工事裏話ではドラマにならないので、この大工事を徹底的に妨害する幕府の権力者や隠密、討幕をはかる浪人(中村翫右衛門)グループ、さらに農民グループ内部の対立抗争や資金作りの苦労話などのエピソードも交え、箱根の広大な大自然をバックにした戦闘シーンなどもふんだんに入れ込んで、それこそコテコテの「風雲録」に仕上がりました。
用水の両側から掘り進んだ農民たちが土砂を崩して出会うところ、芦ノ湖の水が用水に滔々と流れ込むシーン、友野與右衛門が江戸帰還を放棄して箱根の土に身をうずめる決意を涙ながらに固めるところ、牢屋に幽閉された與右衛門が用水開通の烽火を遠望しながら哀れ役人に殺されるシーンなどなど、江湖の紅涙を絞る箇所も多々あって、これぞ立派な人情浪曲人民音頭の宣揚映画と成りおおせているのでした。
いたつきのために売られし司馬江漢遠近画法の海の絵いずこ 茫洋
Thursday, February 03, 2011
山本薩夫監督の「箱根風雲録」をみて
Subscribe to:
Post Comments (Atom)
No comments:
Post a Comment