Saturday, February 12, 2011

世界文学全集「短篇コレクション2」を読んで

照る日曇る日 第407回

池澤夏樹選手が独断と偏見で選んだ全集短編の第2弾です。1回目は期待外れの内容でがっかりさせられましたが、今回は全19編のうち2本も当たりがありましたから、まずまずと言うべきでしょうかねえ。

しかし出来栄えの良し悪しはどうでもいいとして、これらの短編を作者が立ちあげる有様を眺めていると、形も色も大きさもさまざまな繭の中で、いろいろな蚕たちが頭を上下左右に振りながら細く透明な糸をおのれの周囲に吹きかけている光景が思い浮かんできました。作家だけでなく、人は生きていくために、自分だけの無数の小さな物語を紡ぎ出す必要に迫られているのかも知れません。

 さて本巻の当たりのひとつは、馬がバーでお酒を飲んだり,人間たちと楽しくお話をするレーモン・クノーの「トロイの馬」です。トロイ出身の、木馬ならぬ実物の馬がカウンターに腰掛けて、主人公の男女にジンフィズをおごったり、煙草の煙を天井に吹きあげながら、

「じいちゃんがケンタウロスで、ばあちゃんが普通の馬だったので、メンデルの法則に従ってほら、こういう結果になりました。妹の姿は「アマゾン族の戦い」という絵に描かれています」

 などと自慢するのがまったくさまになっていて、素晴らしい。ちなみにクノーは「地下鉄のザジ」の原作者でもあります。

 2本目は同じくフランスの作家ミシェル・ウエルベックが、カナリア諸島での滞在をネタに書き上げた「ランサローテ」。主人公が島で知り合った2人のドイツ人女性と行きずりのセックスをするのですが、お仲間のベルギー人男性は誘っても参加しないまま一人だけ先に帰国してしまう。

やがてパリに戻った主人公は、くだんの男性が、なにやら怪しい新興宗教団体に加盟して少女淫行に罪で起訴されたことを知る、という,はじめは楽しく終わりは物悲しい艶笑小説なのですが、主人公がレスビアンの2人の女性と3Pをやってのけるセックスシーンがとてもいきいきと描かれています。平然と「おまんこ」を連発する野崎歓の翻訳も、壺に嵌まって快感を呼びます。

豚食えば吐き気すこれ飽食の原罪ならむ 茫洋

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