Thursday, January 13, 2011

川上弘美著「機嫌のいい犬」を読んで

照る日曇る日 第401回

当代一流のものかきによる初めての俳句集です。いくら優れた小説家でも俳句の本なんてそうは簡単に出せないでしょう。出した出版社もえらいけど、出してもらった作家は、してやったりとニコニコするでしょう。だから「機嫌のいい犬」という題名がつきた、とういうのは私の勝手な想像です。

徹頭徹尾機嫌のいい犬さくらさう


本書には1924年から2009年までにつくられた、それほど数が多くない俳句が1ページあたりたった2句という贅沢なレイアウトで並べられていますが、歳月が経つにつれてその出来栄えが急速に変化し、いうならば素人が素人裸足のレベルへと突きぬけて著者独特の俳句世界を築き上げていったありさまをつぶさにうかがい知ることができます。

夕桜ホテルのバーに人待てる

秋風や男と歩く錦糸町

はるうれひ乳房はすこしお湯に浮く

などという句は、映像的輪郭がくっきりしていて、秘め事をのぞき知ったような妖しいときめきを感じます。さすがは小説家の俳句です。そして女の句です。


 そんな次第でどれも悪くないのですが、私が格別にいいなと思うのは、こんな句です。

たくさんの犬埋めて山眠るなり

舐めてとる目の中の塵近松忌



でんでん虫生きているって言ってみろ 茫洋

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