Thursday, January 06, 2011

福田善之著「草莽無頼なり」上巻を読んで

照る日曇る日 第398回

福田善之といえば「真田風雲録」。その主題歌を「てんでかっこよく死にたいな」なぞと高歌放吟しながら機動隊に突っ込んでいった昔もあったわけですが、どっこい「袴垂れはどこだ」の当のご本人が健在で、幕末の志士中岡慎太郎を主人公とする小説をお書きになっていたとは知りませんでした。

 世間ではまるで馬鹿のひとつ覚えのように、海援隊の坂本龍馬が幕末史を主導したかのような奇怪な幻影にとりつかれていますが、(特にひどかったのはエヌエチケイの大河ドラマの史実を無視した英雄主義史観)とんでもない話で、別に彼がいなくたって維新は達成されたわけですし、彼のほかにも無数の志士たちが列島各地に叢生していた。著者がいうように、時代が青春期を迎えていたわけです。

 慶応3年(1867)11月15日、所も同じ四条河原町上ル醤油商近江屋新助方2階で暗殺された一代の英雄?龍馬ではなく、従来あまりフットライトを浴びることがなかった、このどんくさい土佐の庄屋の倅、に着目して幕末動乱史を描こうとしたのは、さすがは福田善之といえるでしょう。

 本刊ではこの、いささか遅れてやってきたけれども真打ちの革命家の前史として、土佐藩の武市半平太、長州藩の久坂玄瑞や高杉晋作など尊攘派志士とのまじわりを通じて、吉田松陰の「天朝も、幕府、我藩も不要、ただ六尺の我身が入り用」という草莽の思想に逢着し、疾風怒涛の青春の渦中に身を投じるところまでを、悠揚せまらぬ、けれど深い学殖に裏打ちされた、見識ある高等漫談とでも評すべき語り口で吟じつくしています。



 青春を終わりし時代の行き止まりてんで恰好悪く死んじまうおれたち 茫洋

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