Friday, June 04, 2010

「ウテ・レンパーsingsクルト・ワイル」を視聴する

♪音楽千夜一夜第135回


ウテ・レンパーは1963年ドイツ・ミュンスター生まれの美貌の歌姫です。キャッツやキャバレーやシカゴなどのミュージカル歌手としてつとに有名ですが、1994年にパリのブフ・デユ・ノールでライブ収録されたこのクルト・ワイル歌唱はじつに聴きごたえ、見ごたえがあります。

「クルト・ワイルの音楽の本質は彼が一過性の抒情を徹底的に排除したことです」などと時折解説を交えながら、レンパーは「赤いローザ」や「セーヌ哀歌」「バルバラ・ソング」「アラバマ・ソング」「私は船を待っているの」などワイルの代表作品に激しく感情移入して、時折は涙を滂沱と流しながらドラマチックに歌っています。そして休憩をはさんだ後半のプログラムで、ワイルの名曲として知られる「セプテンバーソング」や「マイシップ」の熱い思いを込めた絶唱に接すると、いったいワイルのどこが反抒情主義なのという疑問がわいてもくるのです。冷血の下にひそむ熱血のたぎりを私たちはあびせかけられたのでした。

 ウテ・レンパーはドイツ語・英語・フランス語を苦もなく使い分け、ローザルクセンブルクやメッキー・メッサー、ジェニーになりきってあざやかに歌います。曲想に応じてあざやかに豹変する表情や機敏な身のこなし、とりわけその官能的な肉体の運動性は見る者を強く惹きつけてやみません。

私は三文オペラといえばロッテ・レーニアとひとつ覚えで思い込んでいたのですが、この美しいミューズの前ではどうやら古い固定観念を改めざるをえないようです。ウテ・レンパーの緩急自在な身体表現力を支えた演出のジャン・ピエール・バリジェンと練達のピアニストジェフ・コーエンの好演も見事でした。

♪昨日辞め今日忘却の総理大臣無常迅速世の常なれど 茫洋

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