Thursday, June 03, 2010

独メンブラン社盤「クララ・ハスキル・ポートレート」を聴いて

♪音楽千夜一夜第134回

クララ・ハスキル(1895-1960)はどこか魔法使いのおばあさんに似たやさしい風貌の持ち主でしたが、そのモーツアルトの演奏ではつとに定評があるところです。

この10枚組のCDにはそのモーツアルトの13番、19番、20番、ゲザ・アンダとの2台の協奏曲k365を柱に、ベートーベン、バッハ、シューベルト、シューマンの有名曲が収められていて、彼女の多彩なピアノ演奏を1枚たった100円というバジェットプライスで楽しむことができます。

 しかしこのセットにはグリュミオーと組んだモーツアルトのヴァイオリンソナタが欠けているのが残念です。あのフィリップス原盤の演奏には孤高の天才に終生つきまとった硬質の悲しさ、そしてハスキルにもつきまとった生の物悲しさが相乗して痛々しいまでに感じられ、そこへ若きグリュミオーの空虚な明るさが加わることによって明暗一如となった名状しがたい魅力を醸し出しているのです。

 しかしハスキルのバッハやとりわけシューマンの演奏も悪くありません。ピアノ協奏曲や「子供の情景」「アヴェッグバリエーション」を聞いていると、このルーマニアの媼の孤独な魂の奥の奥を垣間見たような気持ちになります。


藤多き里に住みたる嬉しさよ 茫洋

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