Monday, June 28, 2010

白い犬の陰に

白い犬の陰に

茫洋広告戯評第12回

最近の携帯通信会社の決算を見ると伸び率ではソフトバンクがダントツで、次が老舗のドコモ、ひと頃元気だったKDDIが伸び悩んでいるようですが、3社の広告キャンペーンもおおかたはそれらの業績を反映しているような気がします。

広告が面白いのは何と言ってもソフトバンクの「白戸家の白い犬キャンペーン」で、いまや遣りたい放題。犬のお父さんがサッカーをしたり選挙に出たりと神出鬼没の大活躍で、かつてはどうしようもない安売り後発会社であったこの企業イメージをおおいに盛り上げ、ユーザーの好意好感度を上昇させています。まいにちおよそ4000本流されるCMの中でこれほど面白いものはないでしょう。

ほんらい広告は商品の特性を消費者にうまく伝達するべきなのですが、このキャンペーンではその基本的メッセージを超えて企画のドラマ性とキャスティングの妙が想定外にヒットしたために、CMが通常のCMの規範を逸脱して一種の社会現象となりおおせました。

民族差別と果敢に闘ってきた反骨の企業経営者と、その意気に感じた制作者のいまどき珍しい幸福かつ奇蹟的な協業であり、あの名作「そうだ京都行こう。」キャンペーンを企画した制作会社シンガタの佐々木宏氏のもうひとつの代表作として、後世に残る傑作でありましょう。

 最近どうも事業も商品企画も沈滞気味のKDDIでは、相変わらずガンガンメールの土屋アンナがぐあんばっていますが、「嵐」とかいう虚弱団体がぞろっと出てくるだけの防水キャンペーンは、そのキャスティングといい、演出といい最悪。最近の資生堂の「椿」もそうですが、こういう有名タレントをただ垂れ流しただけの芸の無さを、視聴者=消費者は鋭く見抜いており、それが企業イメージのずるずる低下につながっているのです。

対するドコモが最近展開したのは渡辺謙、岡田将生、堀北真希、木村カエラなどを起用した「ひとりとひとつ」キャンペーン。ソフトバンクが犬を擬人化したのに対抗して、今度はケーター自体を擬人化しました。

 携帯電話が使用者本人に帰属するパーソナルな存在であることを製品企画の原点に戻って訴求しようとしていますが、それはあまりにも当たり前の話なので、本キャンペーンに先立ってダスベーダーが登場して「俺のボスはどこだ?」と騒いだ(巨額が投じられた!)わりには消費者の反応は白けたものでした。

そもそも「原点に帰ろう」などと言いだした人間はそこで終わっており、そういう経営者が率いる企業は、さらなる衰弱の一途をたどるしかないのです。


    君が代の歌声響く競技場唇結びし君の凛々しさ 茫洋

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