音楽千夜一夜 第141夜
1989年4月にミラノ・スカラ座で行われたライブです。序曲の棒が普段より早いのか世界一のオーケストラも、珍しやついて行くのが精いっぱいになりますが、幕が上がると次第にいつものペースを取り戻し、2幕のフィナーレでは大きな大団円の輪を築きおおせます。安心といえば安心、つまらんといえばつまらない御大ムーティのモーツアルトです。
先日ご紹介した鬼才ピーター・セラーズの奇抜な演出と違って、ミヒャエル・ハンペの演出はオーソドックスそのもの。物語の古典的な骨組みをしっかりと踏まえたうえでところどころで美術、衣装、照明を含めて「ちょっと斬新な」効果を打ち出します。冒頭で男性陣の2人が出帆していた船の帆は白でしたが、2度目の登場は夕方で赤い夕陽と帆が目に鮮やかです。2人の女性陣のおさげが左右に垂らされているので似たような姿形でもすぐに判別できるのです。
出演はフィオルディリージがダニエラ・デッシー、ドラベラはデレス・ツイーグラー、デスピーナがアデリーナ・スカラベリ、フェランドがヨゼフ・クンドラック、グリエルモがアレサンドロ・コルベッリ、ドン・アルフォンソはクラウデイア・デスデーリという布陣でしたが、デスデーリひとりが絶不調で、他の演者の健闘の足をひっぱっておりました。
このモーツアルト最晩年のオペラは、フィガロなど先行する名作に酷似したアリアも頻出してこの天才の早すぎた晩年の創作の衰えも感じさせますが、第2幕のフィオルディリージの長大なアリア「どうか許してください私の恋人よ」など忘れ難い名曲もふんだんにちりばめられていて、我々の耳目を奪います。
♪君知るや蛍は毎晩同じ葉の同じ宿にて眠ることを 茫洋
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