照る日曇る日第108回
この本は、古代から中世、近世までの製塩、漁労、桑と養蚕、紙、鉄器などの「主要非農業生産物」の生産と流通にかんする歴史を概括している。
注目すべきことは、古代から現代まで女性が糸、絹、綿、繭を商人に販売していたことである。彼女たちは養蚕にかんしては弥生時代から一貫してそれら繊維製品の生産部門を双肩に担い、さらにその生産物を自らの裁量で市庭で売却し、交易する商業活動に従事していたのである。
のみならず魚貝などの海産品、炭、薪などの山産品や精進物、野菜の商人も女性が中心であった。古来大多数の農産物、食品の売買も女性が担当し、たやすくは亭主や男性にその収入を手渡したとは考えられない。
またこのような歴史的経路が、「女工哀史」の悲劇はありつつも今日のアパレルデザインや生産・販売への女性優位の参画をもたらしているのだろう。
14世紀以降、女性が田畑などの土地財産についてはその権利を次第に失っていくのは事実であるが、貨幣、動産についての権利をたやすく喪失したわけではない、と著者は断じる。
ルイス・フロイスが日本史で書いたように、「ヨーロッパでは財産は夫婦の間で共有である。日本では各人が自分の分を所有している。時には妻が夫に高利で貸し付けている」というのが桃山時代までの日本だったのである。
このように、中世までの「日本商業史」をめざして書かれたこの前人未踏の試みは、その後継者もほとんどなく、冬枯れの草むらの中に消えた一本の小道のように再び辿る人を待っている。
♪ト短調で歌うなハ長調で歌え
♪これ鶯 ホ長調で鳴いてみよ
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