Monday, April 28, 2008

トルーマン・カポーティ著「ティファニーで朝食を」読む

照る日曇る日第119回

イカの次はなぜか宝石である。

私はいまのところオードリー・ヘプバーンの「ローマの休日」という映画がいちばん好きで、グレゴリーペックとの別れのシーンを見るたびに嗚咽せざるを得ない人なのだが、そんな素敵な映画に主演したヘプバーンが出ているというのでついでに「ティファニーで朝食を」という映画を見たら、それは「ローマの休日」には及びもつかない奇妙な映画で、まあ失敗作といってもいいのだろうが、ゆいいつアパートの窓辺でヘンリー・マンシーニの「ムーンリバー」をギターで弾き語りする小鹿のバンビのようなオードリーの可憐な声と姿だけが記憶に留められた。

「ティファニーで朝食を」の原作がトルーマン・カポーティというアメリカの人気作家の小説であるということは知っていたが、最近私はいまごろになって村上春樹の翻訳で初めてこれを読んだ。するとこれが思いのほかに面白かった。じつにうまく書かれた小説であった。

マンハッタン中の男どもの魂をわしづかみにしたこの小説の女主人公ホリー・ゴライトリーの天衣無縫の魅力は、当たり前の話だが原作のなかでは光彩陸離と輝き渡っている。しかし映画のなかでは、小鹿バンビオードリーがそれなりにファニーであるだけで、それ以外にはなにもない映画といってもけっして過言ではない。

原作のなかでのカポーティは、なぜかフィッツジェラルドやへミングウエイにも似ている。手を伸ばせば届きそうなところにある宝石を心の奥底で追い求めながらもついに手中に収めることのできない男の悲しみの物語が切ないまでにリアルに描き出されている。

それでうれしくなって「ティファニーで朝食を」と一緒に収められている「花盛りの家」「ダイアモンドのギター」「クリスマスの思い出」という3本の短編も読んでみたら、これが「ティファニーで朝食を」よりもよく出来た小説だったのでまた驚いた。
この調子なら昔途中で投げ出したこの人の「冷血」とか「遠い声、遠い部屋」も読みとおせるかもしれない。

もっとも「ティファニーで朝食を」とるというフレーズは、小説のなかではなにがなくほんの1小節しか演奏されていないのに、それをタイトルにしたのは不可解である。ティファニーからタイアップ料金をもらっていたからではないかとさえかんぐられるが、この題名であればこその大ヒットであったのかもしれない。

♪寝んねぐーして死んでしまえればこんな楽なことはない寝んねぐーする 亡羊

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