パーヴェル・ルンギン監督の「ラフマニノフ ある愛の調べ」を見て
闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.171&♪音楽千夜一夜 第231回
2007年のロシア映画で、ピアノの達人にして作曲家のラフマニノフの半生を扱っています。
父母の離婚、恩師への愛憎、揺れ動く女性関係、アメリカ亡命後の過酷な演奏旅行、作曲ができない苦悩、ライラックの花への偏愛等々さまざまなエピソードが時系列を無視してランダムに描かれている映画です。
貴族出身の彼は革命後に故国を亡命するのですが、この映画ではことさらソビエト政権への敵意と反感が露骨に打ち出されていて、旧ソ連と現在のロシアのイデオロギー的なへだたりが劇映画にも強烈に反映されているようです。ラフマニノフ親子は本作では彼の崇拝者で教え子の女性ボリシェヴィキの好意でかろうじて脱出を許されるのですが、これはもちろん恣意的な創作でしょう。
ラフマニノフは強度のうつと神経衰弱に悩まされていたそうですが、その原因になったのが交響曲第一番の初演の失敗でした。作曲家のグラズーノフが、さして演奏困難とも思えぬ出だしで指揮不能に陥る箇所を、この映画は酔っぱらった指揮者が楽譜を譜面台から落としてしまう形で表現していましたが、後の有名なピアノ協奏曲とちがって、この曲はいまでも聴衆を選ぶ晦渋さを持っているので、当時正しく演奏されていたとしても拍手喝采を浴びたとは思えません。
ラフマニノフはいまレコードで聴いてもホロビッツと並ぶピアノの名人であると思いますが、結局作曲家としてはしょせん底の浅い2流の人だったのでしょう。
見境なくアンコールを催促する卑しい聴衆どもよ 蝶人
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