Monday, November 07, 2011

四方田犬彦・石井睦美著「再会と別離」を読んで


照る日曇る日第462

一人の男と一人の女が出会えば、光と闇の中でさまざまな記憶がはぐくまれ、二人の間にはいくつもの時間が音を立てて流れはじめる。

これは五〇歳代の真ん中までてんでに漂流し続けてきた二人の作家が、来たるべき再会を前にして、彼らの過ぎこしと行く方をゆくりなく心をこめて語り尽くした真情あふれる魂の交流録である。

それは期せずして彼らの半生の呼び出しと向き合いの機会ともなり、男が幼き日々の父親への憎悪と軽蔑をあからさまにすれば、女は別れた夫の自滅の原因はおのれの不明にあるとする心も凍り付くような告白を行い、彼らの交換日記は単なる消息通知から突如お互いの全存在を賭けた魂の格闘技の様相を呈して読む者を慄然とさせる。

彼らが閲したあまたの生、そしていくたの死! 失われた時が一挙によみがえり、闇の奥に秘められていた彼らの実存が色をなして立ち上がる時、希望と絶望の鐘が鳴り響き、彼らはたしかにもうひとつの生を生きはじめるのである。

今日こそは毀れた夢を繕う日愛する魂よ美しく装え 蝶人

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