Saturday, June 25, 2011

ピナ・バウシュ演出ウッパタール舞踏団の「私と踊って」を視聴して


♪音楽千夜一夜 209

ほんとはこれは音楽としてはドイツの古い民謡が効果的に使われていても、音楽以上に演劇と舞踊と音楽が混然一体となった一種の総合芸術なのだが、どこに入れたらいいのか分からないので、ここで千夜一夜することにする。

昨日も今日も風が強く、さっき庭で2羽の紋白蝶が交尾しようという体制に入っていたのだが、風だけではなく、そういう気分にならなくなってしまったので、1尺ほど離れた別々の葉っぱに止まって薄青い筋の入った翅をしっかり閉じて、まだ夕方なのに早い夜に入ってしまったけれど、この「私と踊って」という作品は、ある男と女のまさにそういう関係を劇にしていると思った。

はじめは女が、次に男が、男と女に恋をして、最後の最後に全員が舞台の最前列に勢ぞろいして「「私と踊って!」と叫ぶ時に男と女の切ないまでの純粋存在が真っ裸の無垢の状態で全面開示され、観客の心の奥底を鋭く貫きとおすのであるが、芝居の見どころとしてはそこに至るまでの男女のかけひき、すなわち愛の提示や虚勢や内心の葛藤や絶望や憎悪やらのほとんど見るに堪えない荒々しい展開にある。

青年男女も胡蝶も、できたら好きな相手と性交したいと念じてはいるのだが、昆虫においてすら性交や生殖は生の最終目標ではなくて、その周辺、その周縁に散らばっている歌や踊りや休憩や沈思や買い物や睡眠や蕩尽や暇つぶしにこそ、生の本質、換言すればクチュールというものがある、ということをピナ・バウシュ選手はわれらに伝えようとしているのだ。

言言肺腑を衝くという言い方があるとしたら、これは見見臓物を抉るとでもいうべきパフォーマンスであろう。女を演じたジョセフィン・アン・エンディコットの熱演が感動的だった。

別々の葉っぱで眠る紋白蝶 蝶人

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