Friday, June 10, 2011

林瑞絵著「フランス映画どこへ行く」(花伝社刊)を読んで


照る日曇る日第434

私は日本やハリウッドの映画も好きですが、ヨーロッパの映画も大好きで、かつてフランスのヌーヴェルヴァーグの作品群からは、なにやら得体の知れない後光が差し込んでくるような有り難い思いで銀幕を拝んだものでした。

 

しかし御大ゴダール、ジャク・リヴェット、アラン・レネこそ辛うじて健在なれど、トリュフォー、ルイ・マル、シャブロル、とりわけわが偏愛のエリック・ロメール亡き後の新波作品が本邦に公開される機会は激減し、たまにはリュク・ベッソンなどという才人の、てんでフランスの香りがしない奇妙な作品も鑑賞しましたが、最近ではほとんどフランス映画など見たことも聞いたこともない日々が続いていたのでした。

そこに登場したのが、この本です。「バルタザールどこへ行く」というロベール・ブレッソンの映画タイトルをもじってつけられた「フランス映画どこへ行く」という題名を見るだけで、誰もが著者のお洒落なセンスとフランス映画への深い愛情を感じ取ることができるでしょう。 

それにも増して驚いたのは、ここに書かれていたおフランス映画と、かつての映像大国の心も凍るような厳しさです。この国の最近の興行ベストテンはことごとくアホ馬鹿コメディ映画で占められ、ヌーヴェルヴァーグの衣鉢を継ぐ清く正しく美しい芸術映画は、継承者の悪しき作家主義の弊害もあって大衆から見捨てられ、ハリウッドもどきの空疎な商業映画だけが大量生産されているというのですから、ちょっとした驚きです。

文化に冷たい我が国とは違って、この国ではフランス映画の伝統を死守せよ、と国策でテレビ局が映画製作に資金援助しているらしいのですが、芸術よりお金が大好きな彼らはもうかりそうな似非聖林大作映画の投資に走り、結局新しい映像表現に挑もうとする独立系のプロデューサーや監督、脚本家たちが食うや食わずの生き地獄でのたうちまわっているというのです。これでは私が鶴首して待っているドワイヨンの新作など撮れるはずがありませんね。

しかしパリ在住12年超の著者が、代表的な映画監督、プロデューサー、批評家、教育機関、業界関係者からの綿密な取材やインタビューに基づいて書き上げたこの記念碑的な労作は、現代フランス映画事情のエンサイクロペデイアであると同時に、フランス映画の栄光をどうしても復活させたいと願う著者の熱情がひしひしと伝わって来る「夢と希望の書」でもあるのです。

世の中にお混ぜご飯のお焦げほどおいしいものはなし 茫洋

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