Saturday, March 26, 2011

川西政明著「新・日本文壇史第4巻」を読んで

照る日曇る日 第416回

本巻では小林多喜二、中野重治と妹鈴子、壷井繁治・栄夫妻、徳永直、日本共産党のスパイМ、野坂参三夫妻などのプロレタリア文学関連の挿話がこれでもか、これでもかと盛りだくさんに登場して読者を圧倒します。

マルクス主義者による階級闘争は昭和の初期からだんだん過激の度を強めてきましたが、彼らに対する官憲の弾圧も熾烈を極め、昭和8年2月20日に築地警察署の拷問で惨殺された小林多喜二や中野重治、埴谷雄高など数多くのプロレタリア文学者が鮮血迸る拷問を受けています。

とりわけ小林の拷問は凄惨を極め、バットや木刀で全身をくまなく殴りに殴り、太腿に針や錐を打ち込み、腹の上に靴のまま全体重を掛けて腹を踏まれた内蔵は破裂し、内出血した陰茎や睾丸は二倍に膨れ上がっていたそうですが、当時の革命家はこのような暴力の試練に抗しておのれの思想を死守する覚悟をつきかためていたようで、鉛筆で指をへし折られそうになっただけで弱音を吐くわたしなどは、彼らのような過酷な拷問にあえばたちまち右にでも左にでも転向し、場合によっては味方を売ったりすぐにスパイになったりしてしまいそうです。

ところが本書によれば日本共産党を代表する英雄的存在であった野坂参三は自分の細君と姦通していた親友山本懸蔵をソビエト共産党の幹部に密告して死に至らしめている二重、三重、四重のスパイであったそうですから、人間とはわからぬものです。

もっと興味深い存在は特高の親玉であった毛利係長に拷問されもしないのに、みずからが田中清玄以降の日本共産党の幹部となって、おのれの思想と組織と朋友をすべて敵に売り渡してしまったスパイМこと松村昇こと飯塚 盈延で、これほど興味深い深い人物もそうはいないでしょう。

その他、これまで美しい政治的抒情詩とばかり思い込んでいた中野重治の詩「雨の降る品川駅」の初出形が、昭和天皇の暗殺を示唆する過激な内容を含んでいたこと、彼の妹鈴子や壷井栄がいかに熱情的に男と革命を愛したか、「太陽のない街」の徳永直がいかに女性にだらしないあかんたれであったか、などなど、まさに巻を措くあたわざる諸国文藝裏噺の傑作です。


亡き祖母と生きてる母の念力で豚児のあの絵は売れたと思う 茫洋

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