Monday, March 28, 2011

桐野夏生著「ポリティコン」下巻を読んで

照る日曇る日 第418回 ポリティコンとはソクラテスのいう「政治的動物」のことらしい。どんな高邁な理想を掲げた共同体のなかにもいつのまにか忍びこむ、政治的な思惑や経済的利害の対立、愛と協働の美辞麗句とはうらはらに、共同体の基盤を揺さぶる人間同士の羨望と嫉妬と憎悪と敵対……。それらが複雑に交錯しながら政治的動物の終わりなき悲喜劇が月山と鳥海山の麓で繰り広げられるのである。 先祖が立ち上げた理想郷「イワン村」の新理事長の高浪東一は、言いなりにならない初恋の人マヤをヤクザに叩き売って金をせしめ、親の威光を借りて「平成版農業ディズニーランド」として再編することに成功したと見えたが、それもつかの間、おのれの強欲と老・中・青の離反によって権力の座から転落してしまう。 上下巻を通じてもっとも興味深いのが、この軽薄で単純明快で粗野で生真面目な平成の「イワンの馬鹿」であろう。 一方東京・横浜のピンク街でホステス稼業に身をやつしていたマヤは、恩人の葬式で「イワン村」に戻るが、ついに中朝国境で脱北者の斡旋業をやっている母親との連絡がつき、、権力闘争に敗れて村から遁走する羽目になった「イワンの馬鹿」とのヨリを戻して、もういちど新たな人生を始めようと決意する。 まあざっとそういう話であるが、こう総括してみるとかなり竜頭蛇尾のロマネスク小説ではあったなあ。下巻ではもっと物凄い展開になるかと期待していたのに、参った、参った。あと5年掛けて続編を書くべし、書くべし。 けんちゃんのひゃくごうのえがうれたよるつまはなきたりわれはほえたり 茫洋

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