Tuesday, March 15, 2011

マリオ・バルガス=リョサ著「世界終末戦争」を読んで

照る日曇る日 第411回

19紀末のブラジルの辺境の地で実際に起こった内乱を元にして、ペルーのノーベル賞作家が築き上げた魅惑的な形而上の世界です。そこでは希望と絶望、現実と幻想がないまぜになり、密林の内部で異常な増殖を遂げながら、仰ぎ見るような巨大で荘厳なゴシック様式の教会がそそり立つのです。

物語は、内陸部を遍歴する狂人のような聖人の草の根運動から始まります。教会と国家の権威を拒否し、私有財産や結婚制度、階級格差に反対する清貧の放浪者コンセリェイロ。そして彼を慕う無数の社会的弱者、奴隷、ごろつきや犯罪者たちは、辺境の奥地カヌードスに根を下ろし、地下人どもの「愛と平和の理想郷」を構築することに成功します。

富や権力闘争にまみれた共和国ときっぱり絶縁し、ひたすら心の平安を目指す「精神の共和国」に生きる人々を描く著者の筆致は温かく、地上に天国をもたらそうとする不可能に挑んだ、名も無き人々への共感にみちあふれたものです。

日本と同じような西欧化・近代化を目指すブラジル共和国の政治家と軍部は、そのような過激な共同体を国家とカトリックへの反逆とみなし、山にそびえる砦に向かって最強の暴力装置である第七連隊を差し向けるのですが、英雄セザル大佐は無惨な最期を遂げます。

権力対反権力の武力衝突というこの構図は、期せずして本邦の天草の乱や西南の役の英雄的な戦いを連想させてまことに興味深いものがありますが、再三にわたる攻撃を退けたコンセリェイロ軍も、ブラジル国軍八千名の総攻撃の前に全滅し、都市対山村、冨者対貧者、白人対混血、近代対前近代の一代決戦は、前者の最終勝利で決着したように見えます。

けれども、その後のブラジルでは第二、第三のコンセリェイロが間歇的に登場し、依然として世界最終戦の最終ラウンドが終わっていないことを雄弁に物語っているのです。


自らの傲慢強欲棚に上げ天罰を説く東京都知事 茫洋

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