♪音楽千夜一夜 第183夜
これは昨年2月6日、メトロポリタン・オペラ公演のライブ録画です。なんといっても聴きどころはファルスタッフそっくりのジェームズ・レヴァインの指揮と、なんとバリトンで歌うプラシド・ドミンゴの歌唱でしょう。
前者については文句なし。いまや故セルのオペラ演奏もかくやという充実し切った音楽の洪水を熟練演奏家たちから自在に引き出しています。表題役のドミンゴのバリトンを聴くのは、これが初めてですが、テノールとは一味違った渋い喉をたっぷり聴かせてくれます。さすがに年齢を感じさせますが、彼の演技にはまだ見るべきものがたくさんあります。
ドミンゴより年上なのに衰えを知らない歌いっぷりを披露しているのは、敵役フィエスコを演じる超ベテランのウイリアム・モリス。彼こそはメトの守護神的な存在ではないでしょうか。演出のジャンカルロ・デルモナコは音楽を破壊しない正統派の則を守っていて好ましい。
シモン・ボッカネグラの娘役のアドリエンヌ・ピエチョンカ、その恋人役のマルチエロ・ジョルダーニも好演ですが、私は若い人には興味なし。まもなく死んでいく20世紀の大歌手たちの残んの声をば、貝の耳の奥底に響かせて終わりたいとひそかに考えているのです。
昔から政治も文藝も生活も大の保守派であった私には、再現音楽は1950から70年代まで、指揮者は新旧クライバー、ピアノはグールド、チエロはカザルス、お歌はカラスとデイースカウまででもう結構。いまどきの若いピアニストやバイオリン、チエロ、歌手の演奏などみんなまとめて犬に食われてしまえばよいのです。ワンワン。
今のところできる恩返しはこれだけと息子は母の全身を揉む 茫洋
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