闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.58
1973年にイングマール・ベルイマンがファロ島という素敵なリゾート地で撮影した、「犬も食わない夫婦喧嘩」の物語である。
世界中どの夫婦の間にも1匹の魔物が棲んでいて、こいつが両者を敵対させて激しく闘争させたり、一転してごく短い和平をもたらしたりするというじつに微妙な役割を演じているのだが、この作品ではその魔物が延べ6時間にわたって縦横無尽に活躍して看る者をしていささかうんざりさせるが、最後はお約束の♪それじゃあヨリを戻そうかいな、という希望の薄日がうっすら差し込んでくる。
そういう人情の機微を執拗に描き尽くした傑作ドラマである。
夫は研究者、妻は弁護士という教養も資産もある2人が主人公。結婚してから10年、2人の娘を持ち第1話では琴瑟相和していたはずの熟年夫婦の間に突如爆弾がさく裂、若い女と出来た夫が、妻に縁切り状を突き付け、家出するところから物語が熱くなる。
はじめは大ショックを受けて絶望の淵に沈んでいた妻であったが、ようやく夫への献身と自己犠牲のどつぼを脱し、肉体的にも精神的にも自立して早くも不滅の自信を持ち、男などもどんどん作っていやましに若返って美しくなっていく。
ところがその反対に、夫は仕事では出世の道を閉ざされ、プライベートでは若い妻に不倫され、急速に尾羽打ち枯らして元妻との鞘を戻したくなってくる。そういう2人がお互いの弱みや傷口に塩を刷り込んだり、口角泡を飛ばして丁々発止となじり合ったり、しまいには激した夫が妻を殴って血まみれにしたりするのである。
しかしお互いに遠慮があってそういうディベイトやらレスリングが出来なかったからこそ、夫婦はまだ本当の夫婦ではなかったのだ、ということが2人にも、そして見ているわれわれにも次第に身に沁みて分かってくる。いやはや立派な夫婦物語であり、大芸術家の凄腕が遺憾なく発揮された名作といえよう。ベルイマンも偉いが、夫婦を演じるエルランド・ヨセフソンとリブ・ウルマンの演技が素晴らしい。
われは夫君は妻目と目の間で魔物が笑う 茫洋
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