Sunday, November 21, 2010

スティーヴ・マックイーン製作の「トム・ホーン」を見る

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.53

スティーヴ・マックイーンが死の前年の1979年に製作総指揮を兼ねて主演した西部劇映画はいかにも彼らしい渋い味わいのにじみ出た作品。ウイリアム・ウイヤードという聞いたこともない人物に監督をやらせているが、ほんとうは彼がやっています。

物語の主人公トム・ホーンは20世紀初頭のアメリカ西部に実在した早撃ちガンマンで、あの有名なアパッチ族の大酋長のジェロニモを捕まえたという立志伝中の人物だそうだが、映画はその後のガンマンの姿を淡々と哀切に描いている。

先住民と派手にやり合って大殺戮していた「西部の黄金時代!」は遥か歴史の遠景に遠ざかり、全米の僻地にも法と秩序の冷徹な支配が進行してくるというのに、この希代の乱暴者は、ライフルと愛馬を武器に彼の個人的な価値観で、ためらうことなくどんどん人殺しをするので、見る者に大いなるカタルシスを与えるが、あれあれこんなに簡単に人を殺していいのだろうかと心配になったりもする。

こういうある意味で単純明快ないきかたを、周囲の知恵者たちにうまく利用されたトム・ホーンは、恋人や理解者たちの声援や好意も甲斐なく、みずから望んだようにしてほろびにいたる細道をいっきに突っ走る。

時代遅れのヒーローは、20世紀の最新型の法の網にがっつりと絡みとられ、裁判にかけられ絞首刑に処せられる。真っ青になって震える目の前の役人どもをあざ笑いながら……。トム・ホーンの生い立ちにマックイーンの生涯を重ねた忘れ難い秀作です。


いくらお前が完膚無きまでに論破したつもりでも論理で人は変わらないよ 茫洋

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