闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.43
ポーランド生まれで家族そろってナチスドイツにひどい目にあったポランスキー監督が己の辿った受難の歴史を深く噛みしめるようにして描き出した反戦映画です。
自伝ではなく、あえて同じポーランド出身のユダヤ人ピアニストの自伝を原作に借用しているのは、それがドラマにふさわしい劇的なエピソードを備えていることと共に、自分史をストレートに映画にすることにためらいがあったからでしょう。ポランスキーはシャイな人なのです。
私はそんなポランスキーという人を嫌いではありません。シャロンテート事件や幼児暴行疑惑を持ち出すまでもなく、この人物には暗い疑惑と深い謎が秘められているようで、その奇妙に屈折した彼の個性がすべての作品に微妙に反映されています。例えば「赤い航路」におけるマゾヒズムへの傾斜はその好例でしょう。
そういう意味ではデヴィッド・リンチやデニス・ホッパー、オリバー・ストーンなどにちょっと似たタイプかも知れません。彼自身も、アラン・レネのような正統派監督ならいざ知らず、正統的な反戦映画など絶対に撮るまいと決意していたのではないでしょうか。
様々なスキャンダルに追われて金と仕事に困った変態派監督が、イチローのように狙い澄ましてはなった場外ホームラン。それが見事に2002年のカンヌでパルムドールを獲得したのでしょう。
しかし映画は1時間半が基本の作法。映画名人をめざすならいたずらに2時間以上の映画を作ってはいけません。デレクターズ・カットなんてみな愚の骨頂です。ここぞという泣かせどころでショパンを鳴らすというのもちょっと平仄が合いすぎる恨みがあります。
いや別にナチのユダヤ人狩りが正しいとか、ポーランドの人たちのワルシャワ蜂起にけちをつけるつもりは毛頭ありません。ナチの暴圧に堪え凌ぎ、一家離散の悲劇を懸命に生き抜いた実在のピアニストの過酷な生涯には敬意を表するにやぶさかではありませんが、私はこの手のテーマの反戦映画には「主題としては食傷気味である」と一言申し上げたいのです。
正論を清く正しく吐く人のなぜかそれほど美しくはなし 茫洋
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