茫洋物見遊山記第47回&鎌倉ちょっと不思議な物語第234回
鏑木清方記念美術館は観光客でにぎわう小町通りを一本入った閑静な住宅街の中にあります。どうしてそうなのかというともともと小町は30年前までほとんど人気のなかった宅地でその一角に鏑木清方が住んでいて、死後遺族によって市に寄贈されたまさにその場所が記念美術館になったというわけです。
瀟洒な生垣と植え込みが並ぶエントランスを傘をさしながら歩んでいくと、その先に美術館があるとはとても思えない典雅な風情です。玄関から入ってすぐ右が当時のままに再現されたアトリエになっていて、いますぐにも画家本人が姿を現しそうな気がします。
この日狭い会場に飾られていたのは明治40年(1907)に始まった文展に出品された「慶喜恭順」や「黒髪」「ためさるる日」などでしたが師である永野年方を描いた「先師の面影」が作者の敬慕と尊崇の念を伝えて見事な出来栄えでした。
なおこの美術館では画家の数多くのスケッチを備え付けの保存箱から自由に引き出して観賞することができます。無人の会場で久しぶりに小一時間ゆっくりと日本画を眺めて、ああここはいつ来ても江戸から明治の俤が残っているなあと思いつつこていな庭を見やると、ホトトギスの花が雨に打たれて咲き誇っておりました。
裏銀の裏を見せつつ飛びにけり 茫洋
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