♪音楽千夜一夜第92回&鎌倉ちょっと不思議な物語第207回
土曜2時からのマチネーでした。冒頭楽団長よりこのオーケストラの名誉団長、日比谷平一郎氏が1昨日92歳で逝去されたとの報告がなされ、コンサートに先立ってバッハのアリアが粛々と奏されました。今から10年くらい前、旧中央公民館で氏のモーツアルトのカルテットの演奏に接したことを思い出しましたが、枯淡の弦の調べでした。謹んで哀悼の意を表します。
それからおなじみの名曲である「鎌倉市歌」が演奏されると、次はいきなりモーツアルトの変ホ長調k543が始まりました。第1楽章のアダージョでは珍しく第1ヴァイオリンにアンサンブルの乱れがありましたが、すぐに立ち直り、終わりのアレグロなどは快調そのものでした。
第2楽章のアンダンテ・コン・モートから第3楽章のメヌエットへと、新進指揮者三原彰人に率いられたオーケストラは、モーツアルト晩年の孤愁をオーボエなしの編成でほのかに湛えつつ最終楽章へ突入します。変ホ長調4分の2拍子で始まるアレグロです。
第1ヴァイオリンが奏でる16分音符は明るい滅びの歌ですが、これが弦楽器から木菅、木菅から金菅、金菅から弦楽器へと変奏されながら手渡され、螺旋階段を上っては下り、下っては登るように何度も何度も主題が再現されます。
憑かれたように演奏するオーケストラに聞き入っているうちに、私の脳裏に晩秋のヴィーンの路地で、辻音楽師のようにただひとり踊っている背の低い男がぼんやり浮かんできました。粉雪舞い散る夕映えの街灯の下でまるで子供のように単純なメロディを歌いながら踊り興じる孤独な天才の姿が。
そんな見事な演奏だったのに、あまりにも少ない拍手がお気の毒でした。
次はL.グレンダールというデンマークの作曲家による「トロンボーン協奏曲」を府川雪野さんが独奏しました。とても珍しい曲で私には初めての曲でしたが、なかなか楽しめました。
休憩を挟んで演奏されたのはバルトークの「管弦楽のための協奏曲」でした。鎌倉交響楽団は名技性を発揮してこの難曲を見事に演奏しましたが、私は冒頭の鎌倉市歌ほどの感銘すら受けませんでした。これは誰がなんといおうと底の浅い駄曲なのですが、モーツアルトで拍手の労を惜しんだ大方の聴衆は、ここぞとばかりやんややんやの喝采を浴びせ続けます。お決まりのアンコールを催促しているのでしょう。
で、演奏されたのがなんとリストの「ハンガリー舞曲第2番」という俗悪な骨董品。こんな趣味の悪い曲を聴かされるくらいなら、モーツアルトで退場して大船のユニクロで990円のヒートテックを買いに行ったほうが良かったなあ。
次回の公演は恒例のベートーヴェンの「第9」ですが、鎌響はこの名曲をどうして日本語の歌詞で演奏するのでしょうか? 中西礼という鎌倉市政に一大汚点を残して東京に逃亡したこの男の作詞も良くないけれど、どんな日本語訳だってこの第4楽章とはミスマッチであり、原曲の感銘を大きく損なっていることはロバの耳にさえ自明のことではないでしょうか。2010年度からはどうか元のドイツ語に戻して頂きたいものです。
♪オオフロイデとドイツ語で歌わずば鎌倉第9をボイコットすべし 茫洋
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