♪音楽千夜一夜第90回
06年6月にロンドン郊外のグライドボーン音楽祭で行われたモーツアルトの生誕記念演奏です。指揮はハンガリー出身のイヴァン・フィッシャー。
この人のお兄さんのアダム・フィッシャーは、私がドラティのと並んで高く評価するハイドンの交響曲全曲をオーストリア=ハンガリー・ハイドン管弦楽団と入れたり、ハンガリー国立管弦楽団とバリトークの管弦楽曲を録音(2つのバイオリン協奏曲の独奏は今は亡きゲルハルト・ヘッツェルの名演!)したりしている名人ですが、その弟もオペラの達人でこの古楽器による演奏集団をはつらつとドライヴしています。
この古楽器オーケストラは、あのロジャー・ノリントンのロンドン・クラシカル・プレーヤーズを吸収して発展し続けているようですが、聞かされている我々はこの音が果たして17世紀後半から18世紀にかけての啓蒙時代に鳴っていた音の再現なのかなんてわかるはずがありません。
私がこの種のオケを初めて耳にしたのは60年代初めのアーノンクールによるウィーン・コンツェントゥス・ムジクスやコレギウム・アウレウム合奏団でしたが、70年代に入るとホグウッドが創立したエンシェント室内管弦楽団が録音したモーツアルトの交響曲なぞを大枚はたいて買わされて、「もしかすると現代楽器よりもこっちのほうが本物ななのかしら」と思わされてしまったものです。
いまそれらの初期古楽器時代の演奏を聴きなおしてみますと、その大半の演奏内容がこけおどしであり、使用されている楽器の時代考証もいい加減であり、現物が残ってもいない楽器を新規に制作してそれを古楽器と称する輩や、ドボルザークやスメタナまで古楽器で録音する手合いまで登場するに至っては、いったいなにが正しい古楽器演奏なのかを誰も明言することが不可能となり、画期的だったのは「ハイドンやモーツアルトをその当時の楽器で」というコンセプトだけであったことが歳月の経過とともに明らかになってきたように思われます。
下世話にいうならば、アーノンクールもウイーンフィルの指揮棒を一度でもよいからこの手で握りしめたかったからこその古楽器研究であったのであり、ホグウッドも、ノリントンも、ガーディナーもブリュッヘンも、所詮は金儲けと有名目当ての古楽器三昧だったのではないでしょうか。何故か今は亡きデヴィッド・マンローが懐かしい今日この頃です。
大きく脱線してしまいましたが、コニラス・ハイトナーの簡素な演出による「コシ・ファン・トゥッテ」の演奏は、古楽器による現代風モーツアルト歌劇の興業としてまずまずの出来映えです。
♪ただ一日で他の男に乗り換える今も昔もコシ・ファン・トゥッテ 茫洋
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