闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.20
これも夭折した山中の時代劇映画です。
遺作の「人情紙風船」で心中する、いな妻に無理心中されてしまう忍従型の武士をやった河原崎長十郎が茶坊主の主役を、やくざな髪結い役の中村翫右衛門が浪人をあいつとめこのご両人はまたしても、(いな遺作と同様に)命を落とすのです。
しかもその遠因が原節子扮する甘酒屋の娘可愛さのためと来ている。彼女の不肖の弟が遊郭の遊女とできてしまい、その水揚げ代の300両を都合してやろうと身を苦界に堕とそうとするけなげな娘が気の毒だというので、あたら大の男がもろ肌脱いでやくだと大立ち回りを演じて、挙句の果てに2人とも死んでしまうのですからプロットとしてはいかがなものかと思われます。
けれども、純情可憐な原節子がぴたりと壺にはまってじつにういういしい。いい歳こいた海千山千の男が乗りかかかった船、とうとう大事な命まで投げ出してしまうってことは今も昔もあったのではないでしょうか。
それにつけても30分近くあったとかいうラストの迫真の立ち回りがあまりにも短すぎるのは物足りない。溝のバリケードの裏側から刺殺される河内山宗俊の壮烈な死にざまもこれが延々と続いてこそ生かされるのですからね。
監督・脚本 山中貞雄、脚本三村伸太郎、撮影町井春美、音楽西悟郎、出演 河原崎長十郎、中村翫右衛門、山岸しづ江、加東大介、霧立のぼる、市川楽三郎(1936年 日活太秦発声制作)
♪あのこ可愛いや死んでもいいよグサリ突き刺す心の臓 茫洋
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