照る日曇る日第177回&鎌倉ちょっと不思議な物語144回
重い木材を衝立のように並べ、その表面を岩絵具で塗りたくり、よく見ると象や魚や鳥や獅子や怪獣やらをおどろおどろしく描いたものが警備のガイド嬢のほかは無人の会場に次々現れるので驚いてしまった。これでは彼女たちは恐怖と不安のあまり発狂してしまうのではないだろうか。
日本画家と聞いていたが、これはむしろ巨大壁画であり岩窟画のかたまりだ。かのラスコーの洞窟に描かれたおそろしく原初的な動物の姿に似ていなくもない。しかしラスコーの絵の軽妙さは微塵もない。重厚長大、前途茫洋、暗黒無類な図像がただ延々と続くのである。ああ、外は気持ちのよい秋晴れだというのに、ここは地獄の何丁目だろう。私はダンテの煉獄編やマーラーの「大地の歌」を思い出した。
生も暗く、死もまた暗い。
しかし闇を透かして魂の暗黒を象徴するようなこの図像、異様な存在感を溶出するこれらの物体を前にしていると、われらの生にも、われらの世界の前途にもなんの希望も懐けはしないけれど、その絶望を見据えることによるある種の安らぎと覚悟のごときものが空虚な胸のうちに生まれてくるような気がしたのだった。
なお2階の第1展示室の突き当りにある「獅子08-1」が、日経新聞が認定する本年の日本画の最高作に選ばれたそうだ。
♪雄獅子咆哮すれば雌獅子瞑想す 茫洋
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