Saturday, October 04, 2008

山田洋次の「学校」を見る

照る日曇る日第167回

93年の第1作は東京の夜間中学に通う国籍、年齢、性別もさまざまな生徒と熱血教師(西田敏行、竹下景子)が繰り広げる教育愛の物語。田中邦衛演じるイノさんの話が中心だが、中国からやってきた若者の就職口に悩む竹下の演技や突然出てくる渥美清、不良の裕木奈江、不登校の中江有里など多彩なキャスティングが楽しい。山田洋次は「真の教育」は夜間中学にあると知っていた。

96年の第2作は、北海道の高等養護学校を舞台に、西田敏行、いしだあゆみ、永瀬正敏の3教師が活躍。永瀬を泣かせ、教室中をパニックに陥れていた障碍の重い生徒を、それに比較すると重くはない生徒(吉岡秀隆)が一喝してまるで魔法のようにおとなしくさせるシーンは、全教師の夢のまた夢だろう。吉岡が、「自分が馬鹿であることを知っている僕は、それを知らずに済んでいるより重度な弟分より不幸だ」と泣くシーンに心打たれる。また3年間の課程を終えて卒業し、荒い世間に乗り出す生徒たちに「ずっとこの学校においてやりたい」と泣く西田にも。
重いテーマだが、アムロのコンサートと、北の大地の雄大な自然を背景にした熱気球をドラマ転換にうまく使った。山田は才人である。

98年の第3作は、東京江東区の職業訓練学校が舞台。自閉症の息子を持つシングルマザー大竹しのぶが見事な演技を見せる。黒田勇機の自閉症児も上手に演じているが、できれば我が家の本物を起用してほしかった。(冗談、冗談)。それにしても山田はこの難しい障碍についてよく勉強しているのには驚いた。ボイラー士をめざすリストラされたリーマン小林捻侍が好演。ラストも情感がこもる。

2000年に製作された第4作は15歳の不登校児のビルドングスロマンにして長大なロードムービー。主演の金井勇太が長距離ドラーバーの赤井英和、麻実れい、シベリア帰りの不良老人丹波哲郎に巡り合いながら世間と己にめざめていくプロセスを感動的に描く。よくは知らないが、この作品は松竹大船撮影所と丹波の遺作ではないだろうか。

あんな歴史のある撮影所を京浜女子大などにたたき売って、その代わりに別の場所にまた撮影所を作って、当時の松竹はいったい何を考えていたんだろう。

シリーズといっても現在までに4本しかないが、普通のシリーズものと違ってだんだん内容が良くなってきているのが山田洋次のすごいところ。この人と井上ひさしは代々木の頭で脚本を書いても、手と足(撮影と演出現場)がそこから大いに逸脱して噴出するところが素晴らしい。芸術がその本性を発揮してかたくななイデオロギーを乗り越えるのである。

♪幸せはわが枕辺に妻子居て安けき寝息を耳にするとき 茫洋

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