Thursday, October 02, 2008

ダニエル・ハーディング指揮「イドメネオ」を見る

♪音楽千夜一夜第43回

05年12月5日、ミラノ・スカラ座におけるモーツアルトのオペラ「イドメネオ」の公演記録である。指揮はこれもたまたまダニエル・ハーディング。古楽の奏法を要所要所で世界一のオーケストラに強いて、いわゆるひとつの現代風の演奏に仕立てているが、かつて老ベームがライプチッヒ・シュターツカペレとウイーンと入れた同曲のLPの演奏に比べれば大人と子供、月とスッポンというも愚かなりである。

私はオペラの演出はもとより、最近の指揮も演奏も退化の一途を辿っているとしか思えない。もっともトルコの恐るべきピアニスト、ファジル・サイなどが突如出現して腐れ耳の年寄衆を驚倒させる事件もときおり起こるから、端倪すべからざる再現芸術界とはいえばいえそうだが。

さて「イドメネオ」だが、曲は後年のダポンテ3部作に比べるともちろん見劣りするが、いずれのアリアも合唱もさすがモーツアルトならではの劇性と抒情に充ち溢れ、われらの耳目を釘づけにする。

面白いのは、表題役イドメネオの息子イダマンテに恋するヒロイン、イリアが歌う「手紙の歌」。趣向と曲想が「フィガロ」の伯爵夫人とスザンナの有名な手紙のシーンを先取りしているようだ。

歌手はまずまずの出来だが、ゆいいつ良いのは敵役エレクトラを歌ったエンマ・ベル嬢か。リュック・ボンディの演出は凡庸そのもの。もすこし真面目に仕事をせよ。結局さすがと思わされたのはスカラ座の管弦楽と合唱のみだった。


♪強き日本!明るき日本!と獅子吠せり国権病に罹りし男 茫洋

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