Monday, October 13, 2008

角田光代著「三月の招待状」を読んで

照る日曇る日第174回

誰にしても学生時代の交友関係は、相当あとを引くようだ。

その当時の仲間と時を経ながらも浅く、深く付き合い、時に憎み合い、たまさか愛し合い、稀に結婚したり、時折は別れたりもする。そうして終生貴重な友情を保ちながら、歳月とともに変貌を遂げ、次第に老いてゆく一種の共同性もあるのだ。

この本で著者が執拗に描いているのも、そのような青春の紐帯としての学生仲間の相関関係である。

そこには当然亭主にも自分にも飽き足らなくなった主婦や、売れなくなったコラム作家や将来を期待されながら輝きを失って陋巷に沈湎するかつての天才小説家などが登場してそぞろ身につまされる仕掛けだが、そうした一人一人の登場人物の苦悩を、著者は愛情を持って掬いあげ、丁寧に叙述している。

離婚式から始まって結婚式で終わる構成もしゃれているが、私には全編を覆い尽くす暗いトーンと行き場のない不安、そして読む者を真綿で締めるような重苦しさが気になった。途中で何度も読むのをやめようと思ったほどだが、著者と同世代の上空のいたるところに広がっている薄墨色の憂鬱と絶望が、もしかすると次代の希望の糧なのであろうか。

♪暗黒の闇に住みける深海魚いや増す闇に人知れず消ゆ 茫洋


◎この秋のおすすめ展覧会→佐々木健 「SCORE」 会場Gallery Countach/ 会期08年10月18日~11月15日 http://gallery-countach.com/contents/exhibition/exhibition_frame.htm

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