母六回忌
天ざかる鄙の里にて侘びし人 八十路を過ぎてひとり逝きたり
日曜は聖なる神をほめ誉えん 母は高音我等は低音
教会の日曜の朝の奏楽の 前奏無(な)みして歌い給えり
陽炎のひかりあまねき洗面台 声を殺さず泣かれし朝あり
千両万両億両すべて植木に咲かせしが 金持ちになれんと笑い給いき
白魚の如(ごと)美しき指なりき その白魚をついに握らず
そのかみのいまわの夜の苦しさに引きちぎられし髪の黒さよ
うつ伏せに倒れ伏したる母君の右手にありし黄楊(つげ)の櫛かな
我は眞弟は善二妹は美和 良き名与えて母逝き給う
母の名を佐々木愛子と墨で書く 夕陽ケ丘に立つその墓碑銘よ
太刀洗の桜並木の散歩道犬の糞に咲くイヌフグリの花
犬どもの糞に隠れて咲いていたよ青く小さなイヌフグリの花
千両、万両、億両 子等のため母上は金のなる木を植え給えり
滑川の桜並木をわれ往けば躑躅の下にイヌフグリ咲く
犬どもの糞に隠れて咲いていたよ青く小さなイヌフグリの花
頑なに独り居すると言い張りて独りで逝きしたらちねの母
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