Tuesday, January 16, 2007

追悼

二人の白い巨人が土俵に上った。それぞれがわれこそは世界最強の戦士だ、と喚く。

やがて二人の力士は立ち上がってがっぷり4つに組み合ったがそれっきり微塵も動こうとはしない。

周囲の人々は懸命に声援を送り続けたが、力士はたらたらと汗をながすだけで相変わらず動こうとしない。

そのまま時が過ぎ、やがてあたりはとっぷりと暮れたので観客はみな現場から引き揚げた。やがて真っ暗な野原に月が昇り地面をぼんやり照らし出したがそこには誰もいなかった。

親しい人が突然病気になったり、思いがけない事件に巻き込まれて大勢の人々が亡くなったり、当の本人も目の前が暗くなって急に倒れたりする。

死んだ人のことは忘れようとしても忘れることはできないのだが、それでも朝が来て、太陽が輝くと、いつのまにか未曾有の災厄も次第に忘れられたかのような気がするので、無理矢理すべては何もなかったのだ、などと懸命に思い込んで、虚妄の日常性の中へ逃げ込もうとする。

けれども死ほどの一大事が生にとってあるだろうか? 愚かな私よ、そこでしばらく眼を覚ましていろ。

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