Monday, January 08, 2007

苔のむすまで

鎌倉ちょっと不思議な物語31回

以前にもご紹介したように、私の自宅は元は鎌倉石の石切り場であった。

鎌倉石というのは房州石と同様、割合に柔らかで加工しやすい凝灰岩からできていて、寺の五輪塔や石段はおおかたこれで造られている。

また鎌倉石は、昭和の初期に大谷石にとってかわられるまでは、東京の「かまど」の素材として大いに活用されたが、関東地方に「輸出」された鎌倉石の大半が、わが朝比奈峠を経由して金沢文庫の近所の六浦港から船で運ばれたに違いない。

このように地元では鎌倉石は有り余っていたのに、不思議なことに礫岩(玉石)をほとんど産しなかったので、鎌倉時代から近辺の相模川系の川原などから大量に「輸入」していたらしい。
今日の午前11時に私が踏みしめていた朝比奈峠のこの玉石たちも、もちろん外部からの輸入品である。

この峠の改修は、鎌倉時代から江戸時代まで都合3回行われたが、それ以後はまったく人工の手が加わっていないはずなので、この苔むした石は鎌倉時代あるいは下っても江戸時代の石である可能性がある。

実朝や日蓮が歩んだこの峠道を私は今日も歩いている、などというと文学的な比喩として聞こえるかもしれないが、そうではない。文字通りに彼らが歩んだ道そのものが物理的に現存している。

このように考え、感じる人にとって、朝比奈峠とは、その組成自体が800年前のまんま平成の御世に伝えられた奇跡の文化遺産なのである。

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