Thursday, October 12, 2006

葉っぱの王国

ラゾーナ川崎、表参道ヒルズ、六本木ヒルズなど大型商業施設が続々誕生しているが、それらに共通するコンセプトは、「町の中に町を作る」ことであろう。

既存の街づくりでは不可能な衣食住有休知美の諸要素を広大な用地のなかで人為的に結集させ、近隣からの集客を図ろうとする彼ら。そこではレストランやセレクトショップやコンサートホールや美術館や高級ホテルが効率よく組み合わされて顧客の購買意欲をいやがうえにもかき立てようとたくらまれている。

とりわけ注目に値するのは、それらコンクリートと鉄とガラスの建築物の内部と外部と周辺部に植物や樹木をとりこもうとする傾向である。安藤忠雄が設計した表参道ヒルズでは周辺のケヤキの高さを超えない低層建築が指向されたし、このビルの屋根は緑の植生が行われている。他の多くの高層建築でもアトリウムの内部には様々な樹木が繁茂しているし、ビルの最上部のならず壁面にも植物をはりめぐらせビルの温度を下げるとともに都市の二酸化炭素を吸収させることを通じて地球の温暖化を抑えようとしている。

 こうした「町の中の町」における緑化現象の進行は、まだまだ遅々としているが、これを大手町のビルの地下でひそかに行われている米の栽培(パソナ)や大都市のあちらこちらで行われている都市農業(ワタミ)の進展などとあわせて観察すると興味深いものがある。

1つのビルの内部での植物含有度が増大するということは、金属や鉱物含有度が後退するということであり、猫も杓子も鉄筋コンクリートになびきはじめた建築素材様式が、木質住宅の反騰を含めておしかえされつつある証左とも考えることができよう。

 住まいの中で絶滅寸前まで追いつめられた木や草や茎や種子や花たちが、絶対多数と思われたコンクリートと鉄とガラスを押し返し、反転攻勢に転じる転回点がじょじょに迫っているのではないだろうか。
 
 いましばらく時が流れれば、無味乾燥で非人間的で冷酷非情で、新築されたその瞬間から空虚な廃墟そのものに転化している超高層ビルジングたちは、その内部に引き入れられひそかに繁殖していく樹木やつたやつるやこけや微生物などによって侵食されるだろう。

 そして衰弱した人間たちが退去した廃墟の主人公となった植物たちは急速に繁茂するだろう。ビルの窓ガラスをつきやぶって飛び出した巨大な縄文杉のかたまりは、お互いの手と手をしっかりと握り合い、新宿を、渋谷を、六本木を、東京を、そして広大な関東平野をすべて草むした原始林に変えるだろう。

 かくして世界最大の超モダン都市は、葉っぱの王国になるのである。

 その頃熱帯と化した列島の大草原では、あの巨大なステゴザウルスが勝利の雄たけびをあげているだろう。

 ギュワーン、ギュワーン、ギュワーン!

 ああ、せめてその姿をこの目で見てから死にたいものだ。

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