Wednesday, December 29, 2010

ギュンター・ヴァント指揮ケルン放響の「ブルックナー交響曲全集」を聞いて

♪音楽千夜一夜  第172夜

ギュンター・ヴァントが指揮するブルックナー! こう印字しただけで、私の脳内は彼がやってのける、あの立派で、高潔で、非の打ちどころのない音楽に満たされていく快感を覚えてしまう。それは私が最も高く評価するチエリビダッケのミクロの決死圏を遊泳する極限の演奏とはまったく違うオーソドックスにして自然体の演奏であるが、1番でも6番でも、全9曲のどれをとっても変わらない彼独自の美質である。

まあ実際に聴くなら、できれば8番がいいことはいいが、でもあの小沢がそれしか振れない2番だっていいのである。そのあくまでもスコアに密着して、スコアの裏側にある作曲者の意図を、真意を、清く正しく美しい音として表出しようとする心根と、そのアウトプットの恐ろしいまでの高品質はバルリンフィルが相手だろうが、北ドイツ放送交響楽団であろうが、このケルン放送交響楽団であろうが、まったく変わらないのである。

世間では晩年のベルリンフィルとのライヴを好むひとも多いようだが、私はむしろ彼の手兵であった2つの放送交響楽団の演奏をとる。ベルリンフィルは彼を尊敬していたが、彼はそうでもなくて、その微妙な齟齬が同じブルックナーに表れている。ちょうどクライバーがバイエルンの州立オペラに感じなかった微妙なねじれがウインフィルとやるときに露頭しているような微妙な齟齬が。

昔小沢の恩師であった斎藤和英英和辞書の著者の息子が、「形より入れ、しかして形より出でよ」と、のたまわったが、その究極の理想をこれ以上にはない形で見事に実現してのけたのは、その不肖の弟子ではなくてこのヴァントだったのである。


「そして夢」と花崗岩に刻まれし私の義父を西陽照らせり 茫洋

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