Wednesday, December 15, 2010

ヒッチコック監督の「知りすぎていた男」を見ながら

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.67

1956年公開のスリラー映画の傑作。ヒッチは何気なく昼下がりの無人の街路を撮って見せても、それだけで観客を怖いと思わせることができた人。何回見てもいくつもの見落としと新たな発見がある映画です。

今回の発見は、ドリス・デイが熱唱する有名な「ケ・セラ・セラ」のこと。サビのケ・セラ・セラの箇所で、私は後半のセラのセが半音上がっているのに初めて気づきました。ここで上げられると虫歯のホウロウ質が痛くなるような気色悪さがある。どうしてこういう音符を書くのだろうか。

でもきっとあえてそういう風にしたんだろうな。滝廉太郎が「春高楼の花の宴」の最後のエを半音下げたように。しかしレコードを聴くとみんな半音上げて歌っている。これでは作曲家に失礼ではないだろうか。

もひとつこの映画ではバーナード・ハーマンが作曲指揮して広大なロイヤル・アルバート・ホールで演奏される、ああいかにも英国音楽だなあという声楽入りの大曲が鍵を握っています。

恐怖のシンバルが打ち鳴らされるその瞬間を、ドリス・デイも我々も今か今かとはらはらどきどき待っているわけですが、しかし銃弾の引き金を引くその瞬間を、あの暗殺者はどうやって察知できたのかよく分からない。
あの時点ではもうスコアを持ってカウントしていた女性は姿を消していましたからね。よほど音楽的センスのあるアサシネーターだったと思われます。

最後に何回見ても面白いのが、ジェームス・スチュワートに乱入された剥製製造所の面々。カジキマグロやライオンもびっくりでした。


夥しき死人出せる家並び鳶舞う鄙を鎌倉と呼ぶ 茫洋

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