♪音楽千夜一夜 第168夜
昨年10月10日に、NYのメトロポリタン・オペラハウスで行われた「トスカ」のライブ放送です。
指揮者は名前を聞いたこともない中年男でしたが、いわゆる職人肌の劇伴に徹していて、ヒロインのカリタ・マッティラやヒーローのマルセロ・アルバレス、敵役スカルピアのジョージ・ギャクニックをそれこそ思う存分のびのびと歌わせます。
最近のオペラ指揮者はウエルザー・メストなど100人が100人ことごとく神経衰弱のえせインテリばかりで、いろいろ能書きを垂れたり、棒振りの恰好をつけたり、細部を異様なまでに修飾したりすることにいそしんでいますが、んなこと誰も求めてはいないんですね。
オペラの本質は歌の爆発ですから、どんどん歌手に自由に歌わせてやっていただきたい。交響曲とオペラを勘違いして歌手の声をぶち殺すような大音響を鳴らしたり、歌手に呼吸させなかったりする似非マエストロばかりが世界中のオペラハウスで稼ぎまくっているのは、それをやたらと有り難がってブラボ、ブラボと絶叫しているあほばか観衆にすべての責任があるのです。
それはともかくこの演奏、歌唱も劇伴の琴瑟相和して丁々発止、さしつさされつボルテージが次第に上昇し、自然な感興がときに爆発して聴衆の涙をさそいます。
このオペラに出演中のカリタ・マッティラが、「今夜は恥骨にジンジン来るわ」なぞとじつにとたまげた感想を、幕間のインタビュアーに口走っておりましたが、まことにその通りの音と歌の饗宴となりました。
リュック・ボンディの演出もなかなかのもので、最近のふざけたあほばか演出家と違って、音楽をぶち壊しにしないヨーロッパ的な知性がことのほか気に入りました。
そこで私もこの際珍しくブラボー三唱。ブラボー!メト。ブラボー!プッチーニ。ブラボー!カリタ。
年賀状はださないことにしました来年は 茫洋
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