Sunday, October 24, 2010

神奈川県立近代美術館鎌倉別館で「保田春彦展」を見て

茫洋物見遊山記第41回&鎌倉ちょっと不思議な物語第229回


こないだ横浜で見たドガのデッサンは予想外につまらなかったが、鎌倉の別館で見た保田のそれはつまらないどころではなかった。

この違いはどこから来るのかと考えると、前者が制作の途次そのものの残骸としての未完成品であるのに対して、後者がまったき作品として見事に完成されている点にあるだろう。ドガは眼の修練ないし油彩への一課程、あるいは趣味の手習いとして踊子を凝視しているのに対して、保田の視線は女体を貫徹し、妻やモデルの頭や手足や胴体をバラバラに解体しながら、同時並行的にオブジェに再構築し、それらの部品を批評し、観賞し、スケッチし直しながら、ふたたび生身の女体に勢いよく回帰してくる。

かつてセザンヌやピカソが、このプロセスの往路に精力を注いだのに対して、保田は同じエネルギーを還路にも注いだ。だから彼の裸婦のデッサンは私たちをかくも惑わし、撹乱し、限りなく惹きつけるのだろう。その激烈な眼と精神の往還そのものが、保田芸術の真髄である。

最近の大病で死にかけた作者は、患者となった自分や医師や看護師などを同じやり口で荒々しくスケッチしている。これぞ恐るべき百鬼夜行のライブ・ペインテング。生と死と魑魅魍魎が手術室で乱舞している。


ああ人の世は魑魅魍魎の百鬼夜行 茫洋

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