ふあっちょん幻論第22回
繭には家蚕と野蚕の2種があるが、そのいずれにも不可思議な効能が秘められていることは古代の中国でよく知られていた。
紀元前2600年頃のある日、当時の中国の皇帝の妃西陵が1つの繭を誤って湯の中に落としたことが絹の誕生につながった。そして絹を着ることは美しさだけでなく、心身の健康のために役立つことが分かったのである。
わが国の絹織物は、応仁の乱がようやく終わった焼け跡の西陣を産地として作られはじめたが、明治2年に政府が大阪、のちに京都に開設した舎密局が絹やカイコを近代科学の観点から研究し、これが大きく産業振興に役立った。
さらに1930年代に蛹・糞・繭などカイコの生活史を徹底的に研究した結果、繭やそれを原料とする絹はたんぱくのかたまりで抗菌性があり、絹のガーゼを患部に当てるだけでさまざまな効果があるということが広く知られるようになった。
では最近のカイコ・絹情報をいくつかご紹介しておこう。
カイコは糸を作る際にCO2取り込む。いまはやりの「環境に優しい」生物なのである。
家蚕は「春嶺鐘月」という蚕からとるのが普通だが、京都の老舗呉服商「誉田屋源兵衛」では、皇室の「紅葉山御養蚕所」でしか飼育されていなかった日本原種の希少蚕「小石丸」を使って1着100万の絹織物を生産している。
絹産地である山形県米沢市「クレッシェンド・ヨネザワ」の生地はことのほかシャネルに愛され、毎年のように発注されている。
デザイナーの岡正子は、ハイテク新合繊の自在さと繊細な絹の美しさの両立をめざして糸加工から染めや織、仕上げの精錬加工に至る伝統技術とハイテクノロジーのハイブリッドに挑戦している。
日本伝統のカイコ技術は、海外にも進出している。
インドは生糸生産が年1万4千トンで中国に次いで世界2位の蚕大国だが、JICA国際協力事業団は12年にわたってインドにおける飼育研究を指導した結果、丈夫で長い生糸の生産に成功し好評を博している。この改良型は07年に6700トンまで増産されたが、肝心の日本生糸は年産400トンに急落しているのが残念。
日本・中国のカイコは年2回孵化するが、暑いインドでは5回である。しかしもちろん2化性の方が糸は丈夫で長く、高品質である。
カイコの食草はクワだけだと思っていたが、クヌギ、コナラ、クリも食べるという。今度試してみよう。チョウも複数の植物を食草にしているからこれは考えてみれば当然のことだった。
♪息を吐くと布袋腹が出る この中には何が入っているのだろう 亡羊
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