♪バガテルop68
2001年9月11日の同時多発テロ以降、世界は変わった。
人々の心に疑心暗鬼が忍び込み、お互いがお互いを無邪気に信じることが出来なくなった。信頼と無垢の時代が終焉したのである。
この年の冬、米国社会では「コクーンニングcocoonining」とか「コクーンニング消費」という言葉が流行した。Cocoonとはチョウやガやカイコが作る繭のことで、繭の中には蛹が入っている。まるで小鳥がぬくぬくと巣の中で眠っているようだということで、「巣ごもり消費」という言葉も生まれた。
いつ殺されるかわからないような危険な場所に出かけず、家族が家内で身を寄せ合って過そう。安全を確保し、家族の絆とささやかな幸せを確認しようとする自己完結的な生活と消費行動がその年のクリスマスには顕著だった。これがその後世界中に流行し、一世を風靡した「癒しとヒーリング」志向のはじまりではなかっただろうか。
「癒されたい」とか「癒された」という甘っちょろい用語が、その用語の使用者の精神の退廃と堕落をあますところなく証明していることはさておくとしても……。
ちなみに01年のクリスマスには、わが国でもクライスラー「愛の喜び」などのヒーリング音楽CDや32000円の銀製スプーンセット、12000円の日比谷花壇の本物のツリーが売れ、DVD、大画面プラズマTV、ホームシアター元年となった。ソニーのプレステに対抗してマイクロソフトの新型ゲーム機「Xbox」発売されたのはその翌年のことだった。
「コクーンニングcocoonining」の元になったロン・ハワード監督のSF映画「コクーン」は1985年に公開されていた。映画宇宙のからやってきたアンタレス星人がフロリダのプールの中に沈めた巨大な繭が、じつは生命の力を回復させる驚異的な能力を持っていて、瀕死の老人たちを救うというあらすじである。
確かに繭には玄妙なエネルギーがある。私の郷里は養蚕業の盛んな口丹波であるが、少年時代の毎日のおやつはカイコの蛹であり、こんがりと炒ったあの素晴らしく美味な蛋白質を摂取することによって貧しい日々の糧を補っていたことを懐かしく思い出す。
コクーンの生命力はアジアの片隅の農村で数多くの勤労青少年とルンペンプロレタリアートを救済していたのである。
♪たった一度も授業に出なかったくせに試験日はいつですかと尋ねる女子大生 茫洋
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