照る日曇る日第136回
「ガープの世界」、「ホテル・ニューハンプシャー」の作家ジョン・アーヴィング26歳のデビュー作を読む。
ビンテージ・オートバイを無軌道にぶっ飛ばしてあっけなく事故死する青年、第二次大戦のどさくさまぎれに爆死させたはずの不倶戴天の敵によって捕らえられ、小便壷にさかさまに首を突っ込まれて殺されてしまう青年、ひとつオートバイに跨り、ひとつテントで性交する若い男女、ヒーツィング動物園のアジア・クロクマをウイーンの街に脱走させる青年、友がノートに書き付けた箴言を座右の銘として中央ヨーロッパのど真ん中をさすらう主人公―どこをとっても後年のアーヴィングを彷彿させるわくわく大冒険といきあたりばったり人生という2つの主題がほとんど変奏なしに(そこが後年の作と違う)ライブで奏でられる。
訳者の村上春樹は、アーヴィングはバルザックの再来であると規定しているが、それをいうなら主観性100%で自己中バルザックのよみがえりであろう。
アーヴィングにとって、文学とは時空を超えためくるめく物語の奔流であり、主人公の死さえもいともたやすく呑み込んでしまうおびただしい生の蕩尽なのである。
それにしても、オーソン・ウエルズまたはヴィクトリオ・デ・シーカの祖父、ヘルムートバーガーが悲運のヒーロー、ジークフリート・ヤヴォトニク、アル・パチーノのハネス・グラフ、アーヴィン・カシュナー監督による「熊を放つ」を、コロンビア映画が映画化しなかったことがまことにくやまれる。
♪こらあ父にアホ笑いするなと怒鳴りつけ自閉症の息子に投げしは春樹訳「熊を放つ」上下巻 茫洋
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