ある丹波の老人の話(4)
その日、大広間には大勢の人たちが集まりました。
そして一同は輪になって座ると、まず願主の祈りがあり、続いて会衆は口々に南無阿弥陀仏を唱えつつ、両手で珠を送って数珠をグルグル回すのです。
珠の中には格別大きうて房の垂れたのがあって、それが老院長のところに回ってくると、老院長はうやうやしくこれを押し頂き、「戌の歳三三才女眼病平癒いたしますよう、南無阿弥陀仏の観世音菩薩…」と唱えます。それが終るとまた数珠回しが始まり、限りなく繰りかえされるんです。
初めのうちは数珠の回りが緩やかやったんですが、だんだんそれが早うなり、念仏の声も高くなり、会衆一同に憑き物でもしたように満場沸き返るような白熱した祈りとなりました。
私は人の情のありがたさに泣き、「これほど熱意のこもった大勢の祈りは、きっと観音さんに通じてきっとごりやくがいただけるやろう」と、なにやらひどく元気づけられたんでした。
そして母も、「きっとお陰が受けられるやろ」と言って、とてもよろこんだのでした。
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