両吟歌仙 「春の膳の巻」
独活に蛸酢味噌よろしき春の膳 ろく水
そよと吹き込む五弁の桜 楽斎
蝶来る窓辺に本の積まれおり ろく
学成り難くごろ寝するなり 同
満月を見つけし宵のうれしさよ 楽
げにすさまじきゴッホの流星 ろく
跳ね橋の袂に咲きたる曼珠沙華 楽
お春恋しや沖の白雲 ろく
バイカル号いま大桟橋を離れたり 楽
鞄に潜めしピストル一丁 ろく
議事堂の坂を一人で駆け上がる 楽
チョン髷断ちたる代議士もいて ろく
大川の左岸は涼し夏の月 楽
サン・ローランのパンタロン着て ろく
老将は死なずただ生き尽くすのみ 楽
余寒にさする脛の古傷 ろく
オフェリアの沈みし淵か花筏 同
春告鳥の語尾は震えて 楽
羅典語の教師板書で早や四十年 ろく
ワインに厭きて蕎麦湯を愛す 楽
碧眼の妻に古備前ねだられて ろく
茶髪駆け込む大門の質屋 楽
夏草をわけて奔るや風の径 ろく
雲の彼方の少年の夢 楽
蒼穹の果て見て鳴くか揚げ雲雀 ろく
虚無僧は行く蒲公英の道 楽
罪ありて遠流されしや雛流れ ろく
世阿弥をつつく鴉が一羽 楽
砧打つ音なかぞらに月高し ろく
無為を楽しむ今朝の秋かな 楽
猿沢の池を巡れば鹿が鳴く 同
煎餅食いたし美形でいたし ろく
銀座に消ゆ絽に黒髪の謎のひと 楽
真砂女に似たる猫あくびして ろく
わが庵に万朶の桜降りやまず 楽
楽の音もまた春の夜の夢 ろく
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