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Sunday, December 30, 2012

西暦2012年師走 蝶人狂歌三昧




ある晴れた日に 第119回 



十二月八日を吹くや猛き風

一枚の落ち葉となりて犬踊る 

一陣の疾風となりて犬走る

バーキンの頬柔らかしクリスマス

冬晴れや死票投じる総選挙

世の中はいかになるらん冬の朝

冬北斗一票の重さ比類なし

孤老死す皇帝ダリア植え終えて

凩や日中戦力を比較する

冬空の見おろすプールやバタフライ

願いより疾く流れゆく冬の星

玉虫を尋ねて今日も三千里

冬の朝ハワイに着きし瓦礫かな

私はゴキブリをゴム輪鉄砲でぶっ殺す名人ホイサッサ

ウレピーナ楽しいなニッポン全国ウヨクがウヨウヨ

ああ亡羊茫洋すべての人は通り過ぎて行く

待ちわびた新車ようやく店に着き白きアクアで妻と帰りぬ

健くんが川へ投げたアオダイショウよ流れ流れていずこへ行きしか

弾丸を噛みつつ政治も成熟す羹に懲りて膾吹きし人も

主よ人の望みの喜びよわが心に流れる一筋の川よ

天気晴朗なれど何事も無く暮れたり十二月八日

口にテープ手に丸太足を縛られ殺されしひと 

北条に睾丸切り取られて絶命す二大将軍頼家哀れ

家々に皇帝ダリアを植え終えて在所の山に縊れたるひと

死してなおシベリウスについて語りおり吉田秀和「名曲の楽しみ」

君はどんな目に遭ったのと尋ねてもただ手を舐めるだけ被災地からの犬

ポカンポカンと頭を西瓜のように叩いているもうやめてくれえ

鎌倉ざーます婦人は「紀ノ屋」ビンボー人のおいらは「鎌万」に行く

原宿の竹下通りでごろつきに顔殴られたルネ・コロいたまし

青渡岸寺より熊野灘目指し漕ぎ出ずる補陀洛渡海維盛の船

生きたまま入定されし空海の奥都城に舞う高野山の霧

十津川の流失家屋を眺めながら「観光に来て頂くだけで元気になれます」と語るガイド

だんだんと中国と戦争してもいいような気になる自分が怖い

私は日本の桃太郎尖閣も竹島もみんなあなたにあげましょう

今日もまた「行方不明者が出ました」と市の拡声機が叫んでる

三〇〇〇円のごみ箱を買うか買うまいか一か月も迷っていた建築家ミケーレ・デ・ルッキ

ののへいはクライアントの言うことをみな聞く駄目なデザイナー

デザイナーがクライアントの言うことをみな聞いてどうするんだ

鏑木清方は日本のアンリ・ルソーいつも江戸の春に遊んでるよ



大晦日生きてしあればそれで良し 蝶人


 1年間のご愛読ありがとうございました。皆さまどうぞ良いお年をお迎えください。

Tuesday, December 25, 2012

ビクトル・エリセ監督の「エル・スール」を見て




闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.370

娘と父と母。フランコ独裁体制は去ったが、精神的には「ミツバチのささやき」の孤独な魂の世界をそのまま引きずっている映画です。

イレーネ・リオスという女優に心を奪われた父は愛する妻子を投げ捨ててとうとう自裁して果てるのだが、その心の奥底は観客には杳として知れないのであんまり同情はできない。

そうかい、そんなに惚れていたのならもっと若い時に一緒になってれば良かったじゃないか。こんなに可愛い娘がいるのに今頃になってどうして死んでしまうんだ。勝手にしろ、というような醒めた気持ちになってしまう。

ようやく、と言ってはなんだが、ようやく父親がいなくなった暗い屋敷から15歳の少女が南に向かって旅立つところで映画は突然終わるが、これも観客に失礼ではなかろうか。まだ話は半分しか終わっていないのに勝手に打ち切ってもらっては困るのである。

わたくし的には、さびしんぼうによる独りよがりな映画でした。


孤老死す皇帝ダリア植え終えて 蝶人

Monday, November 26, 2012

マイケル・ウインターボトム監督の「マイティ・ハート」を見て



闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.353

パキスタンでテロリストに殺害されたジャーナリストの誘拐劇を、その妻の視点からリアルに描く2007年製作のドキュメンタリー風の映画です。

主演はアンジェリーナ・ジョリーで当時夫であったブラッド・ピットが製作していますが、彼らにこういう地味で政治的な素材に取り組む勇気と根性があったとは知りませんでした。いわゆるひとつの中級の佳作というやつですな。


ザクザクと団栗踏んで山登る 蝶人

Monday, November 12, 2012

ルイ・マル監督の「五月のミル」を見る




闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.345

ルイ・マルが1989年になってフランスの5月革命を振り返った記念すべき作品。若い時のミシェル・ピコリは嫌な感じだったが、歳を経るごとにいい味が出てきてこの映画ではそれが円熟の頂点に達している。

 南仏の森林地帯で田舎暮らしをしている長男ミル(ピコリ)の母親が亡くなってその葬式のためにミューミューなど多くの親戚がやってくる。ちょうどその時にパリで5月革命が勃発し、首都における学生の反乱の余波がこの地方にも押し寄せてきて、列席者にさまざまな同様と影響を及ぼす。この点が本邦の名作「お葬式」との決定的な違いである。

 死者を前にしながら早くも遺産相続の醜い争いに火花が散るのだったが、革命が高揚するにつれ平和と協生と自由恋愛とフリーセックスへの欲望が亢進し、家族の懐かしい思い出の館を売却せずにそのまま皆で利用しようではないかとお互いの心身が解放的になっていき、とうとういきずりのトラックの運転手とミルの姪が一同の目の前で性交しようとするシーンは思わず息を飲む。

されどミル一族における革命の嵐もしょせんはここまで。ドゴール大統領の議会解散、国民投票の演説と共に5月革命が終焉すると同時に、葬儀が終わって一同が解散し、ミルの暮らしも元の静けさを取り戻すのだった。


じゃが芋にするか玉葱にするか迷うも楽し道端の百円野菜 蝶人

Monday, October 29, 2012

ケビン・サリバン監督の「赤毛のアン 新たなる旅立ち」を見て



闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.335

まだまだ続く赤毛のアンちゃんの物語。これはモンゴメリーのフランチャイズ作品だそうで2008年の製作。仕掛け人のケビン・サリバンがこれまでのお話を引き継いだり新しいネタをでっちあげたりして自分勝手なアンちゃんに仕立て上げている。

最初の作品ではアンは寄宿舎に預けられていて、そこからマリラらとマシューの家にやって来たのだが、本作品では別の大金持ちの邸宅に迷い込んでいろいろ苦労しながらけなげに成長していくお話になっている。つまり第1作を別ヴァージョンでやり直すという無茶無茶苦茶な話になっていて原作者が見たらきっと怒るだろうね。

しかしキャステンングだけはいっちょまえで、成人したアンにはバーバラ・ハーシー。傲慢な女主人にはなんとシャーリー・マクレーンが出演している。本シリーズがよっぽど儲かったんだろう。


職業に貴賎はなけれど忌むべきは三百代言投資ファンド 蝶人

Saturday, September 15, 2012

穴澤賢著・竹脇麻衣絵「明日もいっしょにおきようね」を読んで




照る日曇る日第539回


もうこれで仕事が1カ月以上来ないので、気分を変えようと普段は読まない絵本を手にとってみた。

ある保健所で実際にあったという「でかお」という名前の捨て猫を巡るお話だが、こんなことが実際に起こるのか!というなかなかに感動的な物語であった。

いちおう犬でも猫でもどんどん捨ててしまう驕れるアホ馬鹿日本人に対する警告の書というスタイルになってはいるが、そんなことより、これはこの実話をごみ箱の中から探し出してきた作者たちのお手柄なのである。

とりわけ最後のページに添えられた「「明日もいっしょにおきようね」という一文こそ、プロの仕事といえよう。

そういえば2002年の2月に亡くなった我が家の愛犬ムクを最後に看取ったのは、1匹の名も無い茶色の猫だった。彼だか彼女だか分からないが、この野良猫は死に掛けのムクちゃんの犬小屋の中に同棲して星降る零下の寒夜をお互いに温め合い、食事を共にし最期の日々を生きたのだった。


いつの日にか君は大成するというそれまでわれは生きておるべし 蝶人

Saturday, July 28, 2012

ビリー・ワイルダー監督の「七年目の浮気」を見て




闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.284

結婚七年目を迎えたトム・イーウエル選手が、妻子をリゾートに送り出した夏の盛りにマリリン・モンローによろめくウエルメイドのリーマン・コメディ一幕物。

冒頭、妻子を避暑地に送り出した先住民のマンハッタン族とおなじことを百年後もやっていると切り出すこの軽快なユーモアとウイットがビリー・ワイルダーの得意技をウッデイ・アレンが何度も盗んだ。

モンローが地下鉄の風で下半身を冷やすシーンも、彼女がパンティを冷蔵庫で冷やしているほどの暑がりであるという性格描写を徹底するために用意されたのであって、必ずしも白いパンティを観客に見せて喜ばせようとする意図からではなかった。でも見せているけど。

ワイルダーの薫陶よろしくコメデイエンヌ、マリリン・モンローは気を吐いているが、トム・イーウエルの代わりにジャック・レモンならもっと楽しめたのに。


ネギを買わず玉ねぎを買い過ぎて怒られた 蝶人



Tuesday, July 10, 2012

ポール・オースター著「ブルックリン・フォリーズ」を読んで





照る日曇る日第522回


朝日新聞の朝刊で、もはや何の噺だったのかも分からず意味不明の学校ネタと自動車ネタを小林秀雄の晩年の講演会の如く垂れ流している奥田英朗、伊坂幸太郎。そして吹けば飛ぶよなこんにゃく文体で下らないヨタ噺を書き飛ばして原稿料を略取している重松清に失望落胆かつあきれ果てたら、この1冊を手にとってみよう。

オースターは毎年1冊のペースで力作を出し続けているようだが、これは2005年の作品でニューヨークのブルックリン界隈に棲息する市井の人々のいかにもありそうで、しかし絶対にない話を抜群のストーリーテリング術を駆使、するのみならず、舌なめずりして楽しみながら書いている! から空恐ろしい。

「私は静かに死ねる場所を探していた」

という出だしからして読む者をじゅうぶんに惹きつけるが、続く数ページでもはや読者は完璧に著者が繰り出すものがたりの蜘蛛の糸の虜になってしまうに違いない。

んなわけであるからしてあらすじ等については触れないが、晩年のカフカが公演で出会った人形を無くして悲しんでいる少女のために、なんと3週間続けて渾身の力を振るって人形からの手紙を書き続けた、という感動的な逸話ははたして本当なのかしらん。

そんな手紙は少なくとも私が読んだ2種類の全集には収められてはいなかったが、これもオースターの「天才的な」作り話だったりして。
ともあれ小説家のプロの仕事の最良の見本が、ここにある。


そんな情けない声でしか鳴けないのかニイニイゼミ 蝶人