茫洋物見遊山記第36回
猛烈な暑さが一段落した夏の日の夜に「四谷怪談」を見物しました。
鶴屋南北や落語の四谷怪談ではなく、韓国の演劇作家、ハン・テスクが書き下ろし、パク・ロミが主演し、森新太郎が演出する劇団「円」の「死んでみたら死ぬのもなかなか四谷怪談―恨―」です。
ご存知のように鶴屋南北原作の四谷怪談は、非業の死を遂げて亡霊となったお岩が、夫を恨み、祟ってとり殺す怨霊復讐譚ですが、その原作を自由に翻案した本作では、その復讐の凄まじさが一通りではない。
夫を自ら刃にかけ、(鶴屋南北はお岩が自刃する)、夫をそそのかした5人の武士達をとらえて穴に閉じ込め、上から砂を注いで窒息死させ、あまつさえ明治政府の警察官に顔面騎乗してこれも圧殺してしまいます。
前半部で夫や姑にいびられ、これでもか、これでもかと不条理なDⅤ被害に堪えていた可哀想な女性が、劇薬と共に万斛の恨みを呑んで自死して怨霊となってからは、「さあ、これで私は本当の自由を得たんだよ」と叫び、一転して、おのれの加害者一同に徹底的に復讐する。そのサヂスチックな快感を嬉々として演じるパク・ロミの壮絶な妖艶美こそ、本作の最大の見どころといえましょう。
「死んでみたら死ぬのもなかなか」なのでしょうが、女の恨みはかくまで深い。しかし本邦の女の恨みはここまで深くはないかもしれない。それは100年前に日本帝国に併合された韓国の、100年経っても尽きることのない怨嗟の底しれぬ深さをはしなくもしのばせてくれるようでした。
全編を和太鼓、パーカッションで支えるレナード衛藤の音響が、どこかサムルノリの音楽を連想させるのもおつな趣向です。
恨むなら死ぬまで恨め日本人 茫洋
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