Thursday, August 05, 2010

山本薩夫監督「不毛地帯」を見ながら

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.34

「金環触」と同じ監督の作品ですが、今度は山崎豊子の原作の前半部を仲代達矢と陸軍時代の戦友役の丹波哲郎が熱演します。

最後に熱血漢の丹波が鉄道自殺して主人公が悲涙に暮れるところなぞはおもわずほろりときますが、しかし待てよ。
そもそもシベリア帰りの主人公が、大阪のえげつない成りあがり商社に志願して、自衛隊の次期戦闘機の商談に加担していくことになったそもそもの動機がさっぱりわかりまへん。

旧軍隊はもうこりごりだから平和第一主義の民間企業を目指すというのは分かるが、多くの部下たちをいろんな会社にシュウショクさせた凄腕にくせに、他ならぬ自分をなりふり構わぬごきぶり商社に売り込むその料簡がまことに茫洋呆然だ。

そんなに繊維取引をやりたかったなら本町や丼池筋の小さな繊維問屋にでも潜り込めば良かった。それができなかったということは、まだ第日本帝国陸軍の超エリートという権威と地位のおおいさの幻影にしっかりとりつかれていたのでせう。

どうもこの元大本営参謀は、戦争中も戦後になってもその身の振り方にいかがわしいところが感じられ、たかが映画の中の役どころとはいえ、こういう悲劇を生みだす源泉は隗自身にありと言わざるを得ません。

新興商社の社長が元大本営参謀をどのように利用するかが分からずにリクルートしてくるようなあまったれ小僧だからこそ、大本営はあまったれた空想的で非現実的な作戦しか企画立案できなかったのです。

もちろん私は映画に文句をつけるというより、この映画の主人公壱岐正のモデルとされる瀬島隆三という人の生き方にいちゃもんをつけているのですが、この映画は敗戦で結局なにも学ばなかった兵士は、敗戦後にもふたたび同じように世界と人倫に対して過ちを犯すという不変の真理を3時間にわたって汗水たらして物語っているのだと思います。

かつて誰かさんがいみじくも語ったように、歴史は繰り返すのです。一度は悲劇として、二度目は茶番として。


その茗荷も少し大きくしてから食らうべし 茫洋

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