Tuesday, July 13, 2010

ミヒャエル・ハンペ演出で「ウリッセの帰還」を視聴する

♪音楽千夜一夜 第150夜

前夜に引き続いてモンテヴェルディの歌劇を鑑賞しました。これは1985年夏のザルツブルグ音楽祭でのライブを収録したもので、演出は正統派のミヒャエル・ハンペ、そしてジェフリー・テイト指揮のオーストリア放送管弦楽団が手堅い伴奏を務めています。

「ポッペアの戴冠」がローマ時代の史実を脚色したのに対し、このオペラの原作はギリシア神話のホメロスの「オデュッセイア」で、10年におよぶトロイア戦争のあと海の神ポセイドンの悪意で妨害されたオデュッセウス(英語ではユリシーズ、イタリア語ではウリッセ)が、様々な苦難の果てに、女神ミネルヴァとゼウス(ユピテル、ジュピター、ジョーヴェ)の助けによって故郷イタカに帰還し、王妃ペネロペに言いよる求婚者どもを巨大な弓矢で射殺して晴れて再会のよろこびに浸るところで大団円となるのです。

モンテヴェルディの音楽は、「時」「運命」「愛」の3つの神が拮抗するあわいに、一枚の木の葉のようにもてあそばれる人間のはかなさ、そしてつかのまの喜びを、切々と美しく、またあるときは激しく、一瞬の弛緩もなくいきいきと表現していきます。

とりわけ帰還した謎の男が、ウリッセ本人であることをとうとう認めたペネロペが、長らく身にまとった黒衣を脱ぎ捨て白い肌着姿になってひしと夫と抱き合うラストシーンではテイトの棒は白熱の光を帯び、ORFのオケは凄まじい歓喜の調べを奏でるのです。

むやみに広いザルツブルグの大劇場の巨大空間を宇宙を象徴する黄金の円球でかこって天地海を自在に切り分けたミヒャエル・ハンペの演出も光っていました。


お位牌のチンは横からそっと打つのよと母がいう 茫洋

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